妻のために毎日一遍ずつお話を書き続けた。本書に収録されたのはそのごく一部。
印象的だったのは妻の言葉。
入院が一か月以上になり、もはや形成挽回が不可能であるのが明白になった頃のこと。
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「わたし、してもらいたいことがある」
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「お葬式の名前は、作家眉村卓夫人、村上悦子にして欲しい」
来られる人がわからないと困るからと理由をつけたが、妻の本心は、共に人生を過ごし、ずっと協力者であったことを証明したいーということだったに違いない。私にはそれが痛いほどよくわかった。
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通夜と告別式の案内のために道筋に立てられた表示板には、そうしるされ、遺体と共に車で会場に向かう私と娘は、ああ出ているね、と言い合ったのだ。告別式で私は、この経緯を参列の方々に申し上げ、了解を乞うたのである。そのとき私の脳裏には、前年の三月に二人で松尾寺に詣ったさい、祈願の札に、病気平癒と書けと私が二度も言ったのに、妻は聞かず、文運長久とだけしるしたことが、よぎっていた。私の協力者であることに、妻は自負心と誇りを持っていたのだ。
こういう方と一緒になりたいものですね。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2018年12月8日
- 読了日 : 2018年12月7日
- 本棚登録日 : 2018年12月8日
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