タイトルの「アイネクライネ」からはじまり、現在・過去・未来と彼方此方で出会い、絆が繋がっていく。そして最終篇の「ナハトムジーク」で一つに収束していく6話の連なる短編集。
死神2作品を通読後、3作目の伊坂幸太郎。
登場人物多過ぎ。時系列が19年前・10年前・現在と目まぐるしく変わり過ぎ。なもんで子供が次篇には大きく成長していたりとややこし過ぎ。でも面白過ぎ楽し過ぎ。結論、満足度高過ぎで読了。
著者曰く本作品は恋愛小説とのことだが、恋愛要素に固執しないヒューマンドラマと受け取った。綿密なストーリー構成と、各登場人物に宿すキャラクターや性格、発せられるセリフが自然体過ぎてスンと受け入れられる。
親友の佐藤が「出会いってなんだ」と嘆くシーンで織田一真は言う。「自分がどの子を好きになるか、分かんねえだろ。だから、『自分が好きになったのが、この女の子で良かった。俺、ナイス判断だったな』って後で思えるような出会いが最高だ」
【俺ナイス判断】と自己肯定される方が、嫁の魅力がより増して感じる。
藤間が嫁子供が出て行った理由の一つに自分の血液型を挙げた時に課長は言う 。「何でも血液型のせいにする奴を、俺は嫌いじゃないぞ」
何かのせいにしている自分ごと許容されている気がして救われる。
先生のある問いに織田美緒は言う。「お母さんに言われます。自分が正しい、と思いはじめてきたら、自分を心配しろ、って」「あと、相手の間違いを正す時こそ、言葉を選べ、って」
これは耳が痛い。若くして母になり破天荒な旦那(織田一真)を手懐ける由美の懐の深さに納得させられる。
トドメにあとがきで著者は言う。「普段の僕の本に抵抗がある人にも楽しんでもらいやすくなったのではないか」
率直で達観したコメントに好感が持てる。
語られるのは平穏ばかりではないありがちな日常。大きな事件が起こるわけではない。しかし、そんな平穏平凡な人々の心の在り方や、考え方、勇気や気遣いに心がポッと温かくなる。
特に最終篇の「ナハトムジーク」はそれまでの5篇の後日談でありながら、作品全体の仕掛け・伏線回収が素晴らしい。オチの最後の最後までさりげく些細な伏線回収をやって遂げるあたりがこれまた笑えた。
最近何かと忙殺されている私にとって、この頃合いで本作を堪能できて良かった。伊坂幸太郎、ありがとうございました。
- 感想投稿日 : 2022年6月22日
- 読了日 : 2022年6月22日
- 本棚登録日 : 2022年6月22日
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