新装版 坂の上の雲 (4) (文春文庫) (文春文庫 し 1-79)

著者 :
  • 文藝春秋 (1999年1月10日発売)
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感想 : 286
5

・3巻の終わり方からして、本巻のメインになると思った東郷平八郎が全然出てこない。

・その代わり、本巻のメインとなっているのは旅順の乃木軍、とりわけ参謀長伊地知幸介の無能さと頑迷さ。何度焦ったく思ったかわからない。とてももどかしく、やるせない。
cf. 「事実、旅順攻略の乃木軍の様子がこれ以上悪化すれば、日本の陸海軍作戦は総崩れになり、日本国そのものがほろびるであろう。日本の存亡のかぎが、もっとも愚劣でもっとも頑迷な二人の頭脳ににぎられているというのが、この状況下での実情であった。」(p. 405)

・日本が経験した対外戦争4つのうち3つは知らないけれど、少なくとも日露戦争においては日本の存亡がかかっていた。
戦争や平和関連の本だと、教育上の目的から、戦争の悲惨さを伝えたり「二度と戦争はしたくない」という感想を導き出すような、「使われた側の兵士」や市民の目線で書かれた話が多いと思う。だが、このような「戦争を考えて動かしていた側」の止むに止まれぬ事情を知るのもとても重要なことだと実感した。私は平和を追求したいし戦争はしたくないが、なぜ戦争をせねばならなかったのか、するしかないという状況になったのかを知らずに、今後どう戦争を防ぐというのか、平和を追求するのか、今までの自分の無知を知った。

・人物が多くて久々の登場シーンで記憶が朧げになってしまっているのが惜しかった。
時系列や人物(活躍や性格など)や地名のまとめをしたら、膨大な量になりそうだがとても楽しそうだ。

・本巻は今までの4巻の中で最も切羽詰まっていて、先が気になってどんどん読み進めた。
日本をギリギリのところで守ってくれた明治の先人に大変感謝している。
私は自主的にロシア語を勉強しているけれど、先人の奮闘がなければ今頃ロシア語を強制されて日本語を話していなかったかもしれないと思う。

・ところどころで日露の比較、農耕と遊牧の比較、薩長と閥外の比較、陸軍と海軍の比較、そして明治(日露戦争)と昭和(太平洋戦争)の比較が含まれていて、洞察が深まった。

・ところで、「ロシア側の記録によれば…」というのは、司馬さんがまさかキリル文字から情報収集したということだろうか?
(より想像しやすいのは、キリル文字の一次文献を日本語に書き下ろしたニ次文献が先にあって、それを司馬さんが参照したのだろうか)

・戦争は世界規模で動いていることを実感した。例えば、ロシアに侵されてきたユダヤ人が日本の財政を助けてくれたり、英国の漁船を誤って猛攻撃したバルチック艦隊が国際社会の批難を浴びたり。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2022年2月10日
読了日 : 2022年8月24日
本棚登録日 : 2022年2月9日

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