新装版 海と毒薬 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2011年4月15日発売)
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本棚登録 : 2580
感想 : 208
4

医者の序列且つ腐敗した制度が描かれる。
上田ノブが印象的で大場看護婦長との湿っぽい抗争がリアル。
ヒステリックなヒルダさんの存在は、キリスト教の押し付けがましい負の側面を描かれているようにも思えた。
キリスト教にある個人の「罪」意識は、他者に刃を向けることがある。
正義の押しつけはキリスト教限ったことではないが、宗教の負の側面として包括することはできるだろう。
ヒルダさんに対する周囲の嫌悪感は、
「ああ、またキリスト教か」
という日本人独特の感情を描いているのかもしれない。

満州や大連など現代にはない戦時中のロマンにやや惹かれる。
戦争に対する憧れはないが、第二次世界大戦前後の終末感、これから始まる惨劇前の雰囲気にかえってロマンスを感じてしまう。
生きていたら、満州で生まれたかった。
カズオイシグロの『私が孤児だったころ』にもある上海もまた心躍る。
死に目には会いたくないが、この頃にしかない
雑多な雰囲気がたまらなく好きで、読み応えがあった。

内気な勝呂、サイコパス戸田、観察眼阿部ミツ、ボロ雑巾ノブ
それぞれに漂う倦怠感が味わい深い作品だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年3月22日
読了日 : 2022年3月22日
本棚登録日 : 2022年3月22日

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