陳浩基『13・67 上』文春文庫。
各種ミステリーランキングで上位に輝いた珍しい華文ミステリー。
香港警察の伝説の刑事クワンを主人公にした連作短編集。上下巻に全6編が収録され、2013年から1967年まで順に時代を遡って香港の激動の時代とクワンの警察官人生とが描かれる。
時系列を逆転させ、終わりから始まる物語というアイディアはなかなか面白い。しかし、最初の1編の『黒と白のあいだの真実』が余りにも衝撃的で、他の2編も面白いのに、やや上の空という感じだった。
『黒と白のあいだの真実』。これは見事。最近ではなかなかお目にかからないレベルのミステリー短編の傑作だ。2013年が舞台。末期の肝臓癌で余命僅かとなり、かつての部下・ローが容疑者一族5人と伴って病床で意識不明の状態にあるクワンの元を訪ねる。眼も開かず、会話も出来ず、指1本さえ動かせないクワンが見せた驚きの推理と意思伝達方法、まさかの事件解決……
『任侠のジレンマ』。如何なる推理を駆使してクワンはマフィアのボスを炙り出そうとするのか……2003年、既に警察を引退し、顧問となったクワンのアドバイスを受けながらローは裏社会を牛耳るマフィアの逮捕に奔走する。事件解決のためには手段を選ばぬクワンの仕掛けた罠とは。
『クワンのいちばん長い日』。これも見事。何と2つの事件を解決してしまう定年退職前のクワン。1997年、香港返還の1ヵ月前、50歳のクワンは翌日に定年退職を控えていた。その最後の1日に護送中のマフィアが脱走し、さらには露店街のビルの上から硫酸を振りまくという凶悪事件が発生する。クワンはローを伴い、独自に捜査を進め、驚愕の推理力を発揮する。
本体価格870円
★★★★★
- 感想投稿日 : 2020年9月16日
- 読了日 : 2020年9月16日
- 本棚登録日 : 2020年9月15日
みんなの感想をみる