キッチン (角川文庫 よ 11-8)

著者 :
  • KADOKAWA (1998年6月23日発売)
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どんな人生を歩んでいても、誰もが大切な人をなくす痛みを経験するものだと思う。
そんな時そっと寄り添ってくれるような小説。また大切な人をなくした自分の大切な人に、この小説のように寄り添ってあげれるような人になりたい。
また読み返したい。



「本当に暗く淋しいこの山道の中で、自分も輝くことだけがたったひとつ、やれることだと知ったのは、いくつの時だろうか。愛されて育ったのに、いつも淋しかった。--いつか必ず、誰もが時の闇の中へちりぢりになって消えていってしまう。そのことを体にしみ込ませた目をして歩いている。」

「その人はその人を生きるようにできている。幸福とは、自分が実はひとりだということを、なるべく感じなくていい人生だ。」

「なぜ、人はこんなにも選べないのか。虫ケラのように負けまくっても、ごはんを作って食べて眠る。愛する人はみんな死んでゆく。それでも生きてゆかなくてはいけない。」

「人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは自分のどこなのかをわかんないと、本当に楽しいことが何かわからないうちに大きくなっちゃうと思うの。」

「私は彼女の早とちりも、恋にだらしないことも、昔は営業マンで、仕事についてゆけなかったことも、みんな知っているけれども…今の涙の美しさはちょっと忘れがたい。人の心には宝石があると思わせる。」

「私はもうここにはいられない。刻々と足を進める。それは止めることのできない時間の流れだから、仕方ない。私は行きます。ひとつのキャラバンが終わり、また次がはじまる。また会える人がいる。二度と会えない人もいる。いつの間にか去る人、すれ違うだけの人。私はあいさつを交わしながら、どんどん澄んでゆくような気がします。流れる川を見つめながら、生きねばなりません。」


あとがきより 吉本ばなな
「感受性の強さからくる苦悩と孤独にはほとんど耐えがたいくらいにきつい側面がある。それでも生きてさえいれば人生はよどみなくすすんでいき、きっとそれはさほど悪いことではないに違いない。もしも感じやすくても、それをうまく生かしておもしろおかしく生きていくのは不可能ではない。そのためには甘えをなくし、傲慢さを自覚して、冷静さを身につけた方がいい。多少の工夫で人は自分の思うように生きることができるに違いない。という信念を、日々苦しく切ない思いをしていることでいつしか乾燥してしまって、外部からのうるおいを求めている、そんな心を持つ人に届けたい。」

「愛する人たちといつまでもいっしょにいられるわけではないし、どんなすばらしいことも過ぎ去ってしまう。どんな深い悲しみも、時間がたつと同じようには悲しくない。そういうことの美しさをぐっと字に焼きつけたい。」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年12月28日
読了日 : 2022年12月28日
本棚登録日 : 2022年12月25日

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