"通勤電車に乗る時に思い出すのは決まって、鮭の切り身や明太子という、海鮮系のやや色が生々しいものを詰め込んでいる時の映像だった。
自分たちもあの鮭の切り身や明太子と同じだ、と奈加子は思いながら、必死の形相で吊り革に辿りつく。"
"一人はどこで暮らしたって一人だと思う。"
"後ろ暗いことはない。何も悪いことはしていない。白状することは何もない。それでどうしてこんなに立っているのがやっとなんだ。"
"なんにしろ、自分を甘やかすことが少しは必要なのだと思う。そんなに自分に厳しくしている自覚もなかったけれど、本当は自分はどうしようもなく甘ったれた人間で、だから無理していることの綻びが出てきて、周囲の人とうまくやっていけなくなってしまうのだろう。"
"「なんか、結局は社畜なんやねんけど、ときどきはうまいこと気遣われて、あーまあいいかって思ってしまう。二十代やったらそれでも、この会社でええんかとか、ステップアップしたいとかいろいろ考えたんやけど、今はもう出勤するだけで精一杯やわ」"
"でももういいや、と奈加子は思う。もういいや、元に戻らなくても。何でもいいや。
去年と比べて、ますます体は重くなったように感じるけれども、少しだけ落ち着いたような感触もある。良くもないけど、悪くもない。特に幸せではないけど、不幸でもない。"
読んでいて「あ〜分かる」と何回思ったことか…。
頭の中では思っていても、上手く言葉には表現できない気持ちを、見事に小説に表してくれた。
辛いことや報われないことがあっても、美味しいご飯に出会って満たされたり、友達と話して楽しくなったり…。
もっと良い人生があったんじゃないか?と思いながらも、でも今のままでいいやと思うこともある。
幸せを感じること、辛いと思うこと、人生はその繰り返しなのだろう。
- 感想投稿日 : 2021年9月28日
- 読了日 : 2021年9月28日
- 本棚登録日 : 2021年2月10日
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