劇場 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2019年8月28日発売)
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本棚登録 : 3907
感想 : 292
4

初又吉直樹さん。
色眼鏡はよくないが、お笑い芸人だからか、どうしても食指が動かない作家さんだった。
この本は、うちの奥さんが映画化につられて購入したものの、文体があわなくて挫折して転がっていたのを居間で拾ったので読んでみた。

劇団を主宰する永田と青森から上京した大学生沙希の恋愛を描いた小説。

主人公の永田ははっきり言ってクズ。これだけクズな主人公も珍しい。クズっぷりを正当化して、あるいは、虚勢を張って、どんどんややこしくなった感じ。しかもヒモだ。ずっと感情移入できずに読み進める。

永田の劇団は全くパッとしないが、何故か沙希は永田の才能を信じている。大学卒業後はしっかりと
働いて永田を養う。永田はめんどくさい人間だし、腹立たしいくらい自分本位なのに、沙希はよくこんな奴に寄り添おうと頑張るなぁ。そんなに耐えてばかりで沙希は大丈夫かな?と心配していたら、やっぱりどんどんどんどんおかしくなっていく。

ぼろぼろになりながらも、なぜ沙希は永田と一緒にいたのか?それは沙希が東京という夢を諦めたくなかったからだ。沙希は女優になる夢を抱いて上京したが挫折。そんな折、永田に出会った。女優は諦めたが、永田を愛し応援すれば夢をあきらめずにすむ。東京に居続ける理由になる。

だから、沙希が東京を去ることを決めたということは、永田を見限ったということ。永田と復縁することは永遠にありえない。永田は気づいていたのか、気づいていないのかわからないが、二人の将来を一人で話し続ける…このシーンがたまらなく哀しい。

泣いた。
最後の最後ではじめて永田に感情移入する。

クズなんだけど、よく考えると同じようなクズさは自分も持っている。もちろん程度の差はあるけれど。


この小説は、同棲する男女を描いた小説なのに性描写が一切ない。少し不自然とも思ったが、又吉さんの意地でも性愛は書かない、という強い意志を感じた。

冒頭の30ページくらい、永田と沙希の出会いの場面は非常に文学的でとっつきづらい。
それを乗り越えると格段に読みやすくなるので諦めてはだめです。

読み終えての又吉さんの小説の感想は、けっこう好き。
芥川賞受賞「火花」作も読んでみたい、と思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年8月29日
読了日 : 2020年8月24日
本棚登録日 : 2020年8月24日

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