ある晴れた夏の朝

著者 :
  • 偕成社 (2018年7月13日発売)
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本棚登録 : 1069
感想 : 114

「広島、長崎の原爆投下は戦争終結のために必要だった」

小学生のころ、テストの答案用紙にこう書いてしまったのを35年たった今でも思い出し、後悔している。
他人と違う意見に惹かれるお年頃。
そのようなことを大人の人が書いた文章を目にし、深く考えず、なるほどな、と、鵜呑みにしてしまったのだ。
間違った認識による思い込み。
安易だった、と、自分の浅はかさに嫌気がさす。

この小説の登場人物にそんな浅薄な高校生は登場しない。
皆、真摯である。
アメリカの高校生たちの原爆投下についてのディベートバトルの小説。
父がアメリカ人、母が日本人、のメイが語り手となり、原爆否定派の立場からディベートする。
原爆否定派も、原爆肯定派も、できうる限りリサーチし、自分たちの主張に肉付けをしていく。
私は、日本人で“落とされた側”なので、否定派一択でいきたいところだったのだけど、肯定派の主張に、少し揺れてしまう。
しかし心の奥底では「でも、でも…!」と、叫びのような感情が渦巻く。

【あやまちは二度とくりかえしませんから】

原爆慰霊碑に記された、決意のような、宣言のような言葉を、私たち人類は守っていかなくてはならない。

小手鞠さんの小説は、『ラストははじめから決まっていた』に次いで二冊目。
二冊とも、子供たちに、これから人生をたたかっていくための武器を手渡しているような、そんな印象を受けた。
『ラスト〜』と今作は、“自分の思いを言葉に出来るようになること”“考えを人に伝えるにはどうすればいいのか”が、魅力的な小説の奥にあるような気がする。

英訳版含め、この小説が広く読まれることを願っています。

レビューを書いてくださった、さてさてさん。
心に残るすてきな小説のご紹介、ありがとうございました!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の小説
感想投稿日 : 2023年5月25日
読了日 : 2023年5月25日
本棚登録日 : 2019年8月16日

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コメント 4件

さてさてさんのコメント
2023/05/25

5552さん、こんにちは!
この作品をレビューして一年が経ちました。一年経っても強く印象に残っている作品です。自分の中から消えないです。
自分があまりに無知だったことに恥入りましたし、それは、自分だけでもないのかもしれないと思うことも多いです。
また、暑い夏が来ます。その前に一人でも多くの方にこの作品を読んでいただきたい、改めてそう思います。
レビューの輪を繋げていただきありがとうございます。5552さんのレビューをきっかけに、さらにこの作品を手に取られる方の輪が繋がっていくことを切に願います。

5552さんのコメント
2023/05/25

さてさてさん、こんにちは!

このような素晴らしい作品をレビューしてくださり、ありがとうございます!改めて感謝いたします。
本当に、自分の無知無理解が恥ずかしいです。
戦争のこと、原爆のこと、学んだはずなのに、ぜんぜん理解が足らない。
「私には関係ない、もう終わった、昔のこと」として処理してしまったのかもしれません。
この作品を、全世界の子供たちの課題小説として欲しいくらいです。
他者と他者の意見を尊重することも学べるような気がします。
もちろん、大人にも。

さてさてさんのコメント
2023/05/25

5552さん、こちらこそありがとうございます。
この作品、原爆を落とした側であるアメリカに暮らす子供たちのディベートであるというところが読み手に強い説得力を与えるのだと思います。小手鞠さんはとても美しい文章を綴られる方であり、その魅力もあります。
改めて素晴らしい作品だと思いました。
ありがとうございました。

5552さんのコメント
2023/05/26

さてさてさん

設定の素晴らしさもありますよね。
日本を舞台にしたら、こうはなりませんよね。
文章も読みやすく、すらすらと読めました。
核の脅威が無くなる未来をこの世界の一員として願っています。

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