あらくれ・新世帯 (岩波文庫 緑 22-7)

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  • 岩波書店 (2021年11月16日発売)
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感想 : 10
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小説巻末の解説がこれほどまでに理解の役に立ったことはなかった。読者を納得させるために用いられる小説技法の一つである筋書き(プロット)。『あらくれ』のお島はこの筋書きに縛られず、現実そのままの書き写しのような人物で、読んでいて「なんだこいつ」と思ってしまうその理解不能な性格と挙動はまさしく現実の人間と同じ。それに対して筋書きに沿って書かれる人物は読者の理解を得られこそすれ、では現実にそのような人がいるかというと、実際はいない。
正直、『あらくれ』を読んでの一番の感想がまさに「なんだこいつ」だったので(特に後半に突入してから)、解説を読んで初めて自分が筋書きに縛られていたのかと気づいた。

『新世帯』は、前半まで新吉と妻の作との気の詰まる日常が描かれ、後半になり突然お国の登場でガラッとかわる。何かもっとこう、男女の機微な心の通じ合いで、新吉とお国が禁断の恋にでも落ちるのかとおもいきや、次の瞬間にはお国が主婦気取りしていて、新吉が図々しいやつだと小僧と一緒になって苦い顔をしていて、内心「えええ…」と漏らしつつ笑ってしまった。
解説によると、このお国があるいはお島のプロトタイプだったのかもしれない、とのこと……。たしかに、「お国」を「お島」に書き換えると、『新世帯』が『あらくれ』の番外編みたいにも思える。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 岩波文庫(緑)1927
感想投稿日 : 2023年3月22日
読了日 : 2023年5月21日
本棚登録日 : 2023年1月15日

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