手紙 (文春文庫 ひ 13-6)

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  • 文藝春秋 (2006年10月6日発売)
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直貴は、「強盗殺人犯の弟」というのを必死に隠して生きようとするけど、夢を追うのも恋愛も就職も全部全部そのある意味「肩書き」に邪魔される。
直貴の周りの人は直貴を「可哀想」って同情の目で見るけど、積極的に関わろうとしない。実際私の知ってる人が同じ立場だったとしても私も同じような対応をすると思う。

本人に罪ではないのに気を使われてある意味差別を受けてしまう「犯罪被害者の家族」がその仕打ちに耐えなきゃいけないのは「仕方のないことなのか」、という直貴の問いに対して、その時直貴が勤めていた会社の社長は下記のように言う。

「差別はね、当然なんだよ」(p.317 l.8)

「大抵の人間は、犯罪からは遠いところに身を置いておきたいものだ。犯罪者、特に強盗殺人などという凶悪犯罪を犯した人間とは、間接的にせよ関わり合いにはなりたくないものだ。ちょっとした関係から、おかしなことに巻き込まれないともかぎらないからね。犯罪者やそれに近い人間を排除するというのは、しごくまっとうな行為なんだ。自己防衛本能とでもいえばいいかな。」(p.317 l.11)

「犯罪者はそのことも覚悟しなきゃならんのだよ。自分が刑務所に入れば済むという問題じゃない。罰を受けるのは自分だけではないということを認識しなきゃならんのだ。」(p.318 l.3)

こんなにはっきり「差別は当然」と言える社長に驚いた。そしてその理由を聞いて納得した。犯罪がいけないことなのは、こういう理由があるからなんだ、と気づかされた。

物語の最後に直貴は兄と縁を切る決意をし、手紙を書く。兄はその手紙を読んで被害者の家族に最後の手紙を送った。それを読んで思わず泣きそうになってしまった。いつまでも明確にすることの出来ない「犯罪被害者の家族」という立場を思い、苦しくなった。

※手紙全文を書こうと思ったけど、長すぎるのでやめておく。

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色々な場面で、自分も「誰かに追われている」という感覚になったり、人の言葉にハッとなったり...。直貴の進む道が「殺人犯の弟」というもので閉ざされていくたびに、「直貴と兄は別の人なのに」とか「直貴は関係ないのに」って心の中でつっこんで、自分だったらこんな対応はしないのにな、って思ったけど、作中の言葉のところ(記載)でハッとさせられた。確かに、みんな心の中では「直貴と剛は別の人」って理解してるし、あからさまに拒絶はしないけど、結局その思いはただの自己満足で、実際にはとても大きな差別をしているんだなって。その差別を「当たり前」って言う社長にはびっくりだったけど。後々聞いてみると本当にその通りって納得できる。「犯罪がだめ」「殺人がだめ」の理由ってこういうところからきてるんだって素直に受け入れることができた。
簡単な言葉では表せないほど、深く考えさせられる作品。「考える系」過去1!最後の最後に出てきた「兄剛志の手紙」めっちゃ泣けた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年9月15日
読了日 : 2021年9月15日
本棚登録日 : 2021年8月19日

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