細川ガラシャ夫人(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1986年3月27日発売)
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何よりもお家の存続が優先された時代、一人の人間としての心の充足や幸せを求めた、世紀の謀反者の娘 明智玉子。

高い知性と豊かな感性を備えた彼女は、時代の価値観へ果敢な挑戦をしながら一生を終えた。
それは何も戦国時代に限ったことではなく、儘ならない環境のなかで、自分がどう生きるか、何を選ぶかは、自分に課せられているということを私たちに示唆している。

天下人信長を討った謀反人明智光秀の娘というレッテルを背負って生きる哀しみ、そして慈愛に満ちた父としての明智光秀への思慕。
世間からの目と、断ち切れぬ父への愛情の狭間で、すがることができるのは、夫細川忠興のみ。
しかし、彼女はその夫の激しい気性と悋気にも苦しむ運命を背負う。

親きょうだい一族をすべて滅ぼされ、すがりたい夫からも子ども達と離れ、山奥に幽閉された彼女。

次々降りかかる苦難について、「なぜ自分だけがこんなに辛い目に?」と思うのは常だ。

やっと手にする安寧も、次にまた何かが起こり、自分の手元から奪われるのではという不安に常に苛まれる一生。
ならば、最初から幸せを望まず、我慢と辛抱をしているほうがまだよいのでは?という問いに私の心も震える。

本文より:「人の世に苦難はつきもの、ただ苦難を逃れよう逃れようとして生きていては、今幸せであることすら恐ろしい。幸せの時すら、この幸せが、いつ崩れることかと、恐れて生きて行かねばなりませぬ」

私たちも今、パンデミックという不確実真っただ中に生きている。
何を以て心の充足とするのか。足りないものは何か。自分が欲しているのは何か。今手にできているものは何か。幸せの本質に向き合ういい時期なのかもしれない。

イエズス会において、日本人としての彼女の評価がとても高かったと知り、イエズス会運営の大学出身なので、勝手に親近感。私は信徒ではないけれど。
とても魅力的な人間に出会えた一冊でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年5月28日
読了日 : 2020年5月27日
本棚登録日 : 2020年4月13日

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