彼女は頭が悪いから

  • 文藝春秋 (2018年7月20日発売)
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世間を騒然とさせた2016年東大生強制わいせつ事件について、作者 姫野さんが「着想を得た」という書下ろし小説。

どこまでが事実で、どこからフィクションなのか、曖昧。
多くの登場人物に関して、実在する地名、学校名、組織名など実在の名称を使っている(一部だけ架空だが想像しやすいものも多い)。

どこに住み、どんな学歴を持ち、職業や企業名によってどれほどの経済的余裕をもった生活を営んでいるのか、メタファーが盛りだくさん。
そうした固有名詞が過剰。
バックグラウンドですべてを物語る感があり、冗長な前半。

まるで物見遊山のネットニュースか、週刊誌の取材記事かのような印象。

本著にある彼らの行為は獣同然。
理性や他者の感情への想像性の決定的欠如。
年齢相応の倫理観や良心も持ち合わせていない身勝手の塊。

いくら頭脳明晰でも、裕福な家庭に育っても、こうした能力が欠如している人間は一定数いる。親も同類。
逆に「普通の」家庭や劣悪な環境に育っていても、こうした能力が欠如している人間もいる。

ただ、「悪い人は悪い」「弱い人は可哀想な人」という一義的な光の照らし方では、姫野さんがこの事件に抱いた怒りが、文芸として昇華しきれていない印象。読み手の嫌悪という感情にのみ訴え、単純化しすぎだと思う。

人物の描き方が一種の階級闘争的憤怒にまみれていて残念。
東大の学生を「東大生」と括ってしまった感。
白黒二元論で、単純な記号化では物足りないなあ。

姫野さんの文章、前にも読んだけれど相性が悪い。
「着想を得た小説」とせずに、女子学生も含めて家柄、出自、家の経済力の先の取材ももっと突っ込んで、最後までノンフィクションとして書けばよかったのに。
「着想を得た小説」という表現が呑み込めない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年5月18日
読了日 : 2021年5月18日
本棚登録日 : 2021年5月18日

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