「三月は深き紅の淵を」の次に「麦の海に沈む果実」を読みました。これは逆でも良いと思います。でもこの「黄昏の百合の骨」は「麦の」の後に読まないと、「麦の」の前半が台無しになってしまいます。
なんと言ってもこの作品は一にも二にも理瀬だと思います。「麦の」で主人公・理瀬に感情移入していた人はそもそも「麦の」の最後に放り出され、そしてこの作品でトドメを刺されます。
「しょせん、あたしは善人にはなれないのだ。」
こっちの世界とそっちの世界。理瀬という女の子にダークなどこまでもダークなヒロインの片鱗をそこかしこに感じさせながら物語はゆっくりと進んでいきます。でもそんな理瀬の周りで蠢く人間模様はさらに複雑です。一体誰が味方で誰が敵なのか。誰がこっち側で誰がそっち側の人間なのか。血生臭い闇がずっと見え隠れするなんとも言えない世界観。書名の「骨」の一文字が物語に隠された闇を暗示し続けます。
最後の最後までどんでん返しに継ぐどんでん返し、あまりに予想外の展開続きに自分の感覚まで信じられなくなっていきます。まさか、まさかの連続。そして、最後に新たな物語が胎動し始めるかのような予感を残しながら幕を下ろします。
「麦の」のようなファンタジーっぽい雰囲気もなく、これはミステリーです!という感じの作品でしたが、それを恩田さんも意識されたのか、この作品では、いつもの如く散々に散りばめられた伏線が、最後にはかなり綺麗に回収されてモヤモヤ感をあまり残さないで結末を迎えました。
こうなるとなんだかモヤモヤできないことにモヤモヤしてしまうような不思議な心持ち。でも間違いなくこれも恩田さんだなぁと感じました。
「麦の」と必ずセットで読みたい、そんな作品でした。
- 感想投稿日 : 2019年12月16日
- 読了日 : 2019年12月16日
- 本棚登録日 : 2019年12月15日
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