本屋さんで待ち合わせ

著者 :
  • 大和書房 (2012年10月6日発売)
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本棚登録 : 2546
感想 : 322
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『一日の大半を本や漫画を読んで過ごしております。こんにちは。』

という三浦しをんさん。なんだかちょっと羨ましくなるその生活ですが、そこに至るご苦労は数々のエッセイで拝見しております。恐れいります。さて、三浦さんというとエッセイ!です。もう、やいのやいのと、ハイになる気持ちを抑えられないその世界は一度ハマると抜け出せなくなるドッボーンな世界です。でも、ややや、この作品は、ちょちょっと違うようです。テンションまっくすー!でいこうかと思いましたが、これは三浦さんが読んでこられた数多の本の『書評集』です。まあご本人がおっしゃるには『ちゃんとした評論ではなく、「好きだー!」「おもしろいっ」という咆哮になっちゃっているので、お気軽に』ということですが、まんまエッセイではないので、今日の私はテンション控え目で参りたいと思います。狂った さてさてを楽しみにしていらした皆さんには許してチョンマゲでごじゃるが、それ以上に面白かったでごじゃるので、早速進めてまいりましょう!

ということで、この作品は、全部で135作品以上の本、本、本!を、色んな角度から取り上げた書評集です。「キュリアス・マインド(ジョン・ブロックマン)」、「江戸の下半身事情(永井義男)」、「双調 平家物語(橋本治)」、「魚偏漢字の話(加納喜光)」などなど、国内も国外も、過去も現代も、そしてジャンルの垣根などなく極めて多彩です。ちなみに、私が読んだことがあるのは『八日目の蝉(角田光代)』、一冊しかなかったぁ orz orz orz という残念!無念な事実。それにしても凄いなあ。この本の山。では、ちょっと見てみましょう。

まずは、エッセイの体裁の中に本の紹介が登場するタイプ。〈読むと猛然と腹が減る〉というエッセイの一節からは、三浦さんの普段の日常生活が窺えます。『一人で食事するときは、たいていなにかを読みながら食べる』という三浦さん。なるほどぉ。確かに一人で食事してる時って、視線のやり場に困りますよね。カウンターに座って店員さんと目があっても罰の悪い思いをするだけだし、料理をじっと見つめていてもアブナイ人だし。なので『食事と読書はセット』という三浦さん。『片手でページをめくりやすいことを基準に、外食のメニューを選ぶ』ということで、『フォークとナイフを使う洋食』も『茶碗やらお碗を持ち替える和食』も避けるので『酒のつまみと酒ばかり』になったという結果論。う〜ん、それでいいのかぁ?という気もしますがご本人が良いならそれでいいのでしょう。また、本の内容も『登場人物がつらすぎる目に遭ってたりすると、「呑気に食べててすみません」という気分になっていけない』。なるほど。『性描写が濃厚すぎると、食事そっちのけで読みふけってしまう』。な、なるほど。だから『悲しすぎず、生々しすぎぬものが、食事時には向くようだ』というなるほどなお話。そして、そんな食事向きな一冊ということで選ばれたのが「ロッパの悲食記 (古川緑波)」という1959年に出版された随筆。『おいしいご飯をブラックホールのごとく無尽蔵に吸いつくす強靭な胃袋』、『いくら食べても腹が減ってしまう生き物の哀しみと不毛に、無謀にして悲愴な戦いを挑んでいるかのよう』というその内容に感心する三浦さん。そしてそんな本を読んだ読後は『食事時でもないのに猛然と腹が減り、コンビニのたらこスパゲッティ499kcalを食べた、嗚呼』という、これまたなオチの結果論。『罪つくりなロッパ氏であった』とまとめます。60年も前の本に食欲がそそられるって、どんな本なんだろ、ちょっと興味がわきました。

そして他は、さてさてのレビューでは珍しくダイジェストでまいりましょう。いや、それだけどれもこれもご紹介したくなる面白い本ばかりなんですよ。なので、6つの本を駆け足します。

・『著者は「六千人の女性とセックスした」』という記述に『セックスを通して人間関係の機微をひたすら追求しようとするところが素晴らしい』、そして『身近にいる大切なひとと、心と体をより深く楽しく通じあわせるために、ぜひ参考にしたい』という「エリートセックス (加藤鷹)」。
・『不倫に破れた「あたし」が、源氏物語を執筆中の紫式部のもとへタイムスリップする物語』では、『平安時代の美男美女が、どう考えても美男美女じゃない』、『おかめの大群!』だと感じる一方で『「美人」の基準は変わっても、男と女、ひととひととのあいだの溝は、千年前から変わらない』という「小袖日記 (柴田よしき)」。
・聞き捨てならない『左きき短命説』というものが登場し、その理由が『左ききが戦争時の戦闘場面で命を落としやすい』。それは『武器は多数派である「右きき仕様」になっている』からという「左対右 きき手大研究 (八田武志)』。
・三浦さんイチオシの『ボーイズラブ』繋がりで、『イギリスのゲイ(同性愛者)は、活発な消費活動を行っている』、『ゲイ・マネーはなんと、いまや年間十八兆円を超える』、なので日本に沢山呼べば大きな経済効果が期待できると三浦さんが主張する「ゲイ・マネーが英国経済を支える!? (入江敦彦)」
・『著者の「人生の選択」はトイレでおしっこするときに、音消しの水を流さないと決めた』という一節に『私も常に大いなる欺瞞と矛盾を覚え、どうすべきか悩んでいた』が、『笑いとともに決めました。「音消ししない」、と』という「猫座の女の生活と意見 (浅生ハルミ)」。
・『小学生のころ、ウン○を食べる話を読んで感銘を受けた』、『谷崎先生のウン○の描写はねっちりしている』という「少将滋幹の母 (谷崎潤一郎)」。などなど。

また、一章を丸ごと超読み応えのある解説でまとめた『読まずにわかる「東海道四谷怪談」』。これには普段その背景を深く考えたことのなかった『四谷怪談』がこんなに奥深い世界だったのか、ととても驚きました。すごいなぁ、この考察。三浦さんって何者なんだろう。

ということで、三浦さんの読書の量と幅、そして絶妙な書評の書きっぷりにただただ圧倒されるこの作品。135冊以上の文学作品や漫画について、その読み込みの深さにも圧倒されるこの作品。『子どものころは、「よく本を読んでえらいわね」』と褒められたのが、『本を読むのもいいけど、あんた結婚どうすんの?』に変わってしまって、でも『いま読書中だから、その話はまた今度な』とさらりとかわす三浦さん。『本を読めば人格が磨かれ、知識が深まり、情緒が豊かになるかというと、そうでもないことは我が身で実証済み』という三浦さんは、『読書は、限りある生を、より楽しく深くまっとうするための、ひとつの手段にすぎない』とまとめます。『本は、人間の記憶であり、記録であり、ここではないどこかへ通じる道である』という本、そして読書の世界。日々、レビューを書いていて、その本のどういった部分をどうレビューに反映させていくかに悩むことも多いですが、三浦さんの書評を読んで、自身の感情に突き刺さったもの、自分の心に正直に、下手に飾らず自分らしく展開する。結局は、それが読んでくださる皆さんにも心通じる唯一の方法なのかなと思いました。

私がレビューを書く中で一番心掛けていることは、『読みたい』に登録してくださる方が一人でも多く出るような内容にすること。それこそが、私に感動を与えてくれたその作品に私ができる唯一の恩返しだと思うからです。この作品からは、そんなレビュー作成へのヒントをたくさんいただきました。三浦さん、ありがとうございます。

他のエッセイ集に見られる振り切れた世界はありませんでしたが、三浦さんならではの鋭い、もしくは奇抜な切り口からバッサバッサと切った書評がたっぷり詰まった充実の一冊。やっぱり三浦しをんさんはいいなぁ、しみじみと感じた、そんな作品でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 三浦しをんさん
感想投稿日 : 2020年7月14日
読了日 : 2020年7月12日
本棚登録日 : 2020年7月14日

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