星の子 (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2019年12月6日発売)
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新興宗教(カルト)に飲み込まれていく家族の話。タイムリーな感じがします。主人公ちひろか幼少時病弱であったことから「金星のめぐみ」という水に両親が頼り始めます。
そこから、仕事を変え、家は引っ越しを繰り返す度狭くなっていきます。姉は16で家を出ていってしまいます。
全体に主人公ちひろがあっけらかんとしていて物語は明るく進展します。一方で怪しい祭壇や行事、ルールなどが時おり顔を覗かせます。
でも愛情いっぱいの親(ただし周囲の忠告は聞かない)や友達にかこまれ成長していきます。
カルト宗教はその家にとっての「文化」といえるほどの位置付けになり浸透していく描写がよくよく考えると恐い。

歴史を紐解くと、司馬遼太郎「妖怪」では生きることの苦しみから現世を否定し、極楽往生にのめり込んでいく京の人びとが描かれます。後の一向一揆もしかりです。
また同「世に棲む日々」では、尊皇攘夷という思想を手に入れた志士たちが猖獗の限りを尽くしていく様が描かれます。人間は思想を得ると世界が一気に広がった気がし、行動が飛躍すると言います。思想は本来硬質で柔軟性とは対極にあるともいい、一つの考えにとらわれる恐ろしさを示しています。

そう考えたときに、カルト宗教や特定の思想は、人びとの生きること、人生や社会への不安から巧妙に忍びより、入り込んでくるような気がします。

最後に両親と星を見る描写があります。
両親とちひろそれぞれに流れ星を見つけるけど一緒には見つけられず終わります。
やがてちひろが離れていく暗喩なのか。
それとも迫ってくるカルトにとらわれる暗喩なのか。ちょっと考えさせられる恐い終わりかたです。

今村さんははじめての作家さんでしたがとても読みやすい文章であっという間に読了しました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年9月20日
読了日 : 2022年9月20日
本棚登録日 : 2022年9月20日

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