楽園のカンヴァス (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2014年6月27日発売)
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アンリ・ルソーの未発見の絵の真贋を判定せよ。対するのはMoMaのブラウンと、若きルソー研究者早川織絵。その背後に、様々な組織、人物の思惑が蠢く。極上の美術ミステリーでした。
原田マハさんの美術への造詣は群を抜いています。そして、美術への扉を開いてくれるという点で優れて価値ある一冊だと思います。
美術館で何を見ていいかわからない織絵に父のいった言葉「自分の好きな友だちなら見つけられるだろう?」
確かに、美術館に行ってこれは好きだという作品なら出会える。箱根の成川美術館で見た加山又造「猫」、京都広隆寺で見た弥勒菩薩像、小一時間動かずに見つめてしまったことがあります。
あぁそれくらいならわかるかなと読み進めることができるのです。
そんな自分を名画を巡るミステリーに心を捉えてしまうところに凄みがあります。「夢」にまつわるアンリ・ルソーの物語。そこに描かれる彼の生きざまや情熱に、知識のない自分でも名画の名画たる所以を知ることができるのです。
そして、まるで見てきたかのように、ルソーやピカソの生きた時代のフランス、織絵とブラウンの過ごしたスイスのバーゼルが描かれていることです。街の空気が匂って来るようです。それくらい生き生きと描写がなされています。
心からルソーの名画を心から愛する織絵とブラウンだからこそ、その対決の結末はもう、感動でした。

「画家を知るには、何十時間も何百時間もかけてその作品と向き合うこと」
「偶然、慧眼、財力。名作の運命は、この三つの要因で決定される。」
「目と手と心、この三つが揃っているか。それが名画を名画たらしめる決定的な要素なのだ。」
私たちが名文を読むたびに新しい発見や感動が色褪せず生まれるのと同様に、名画にも見る人の人生を変えるだけのものがある。
それを見ごたえとして引き出し、私を引き付ける原田マハさんに脱帽です。
新しい世界に触れる喜び。読了するまで幸せな時間を過ごせました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年8月7日
読了日 : 2022年8月7日
本棚登録日 : 2022年8月3日

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