推し、燃ゆ

著者 :
  • 河出書房新社 (2020年9月10日発売)
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本棚登録 : 25645
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娘が「カラフルピーチ(youtuber)」にハマっています。そのカラピチグッズを買うために一緒に3時間も並びました。数百人の長蛇の列。待っている間に本一冊を読みきって、それはそれで充実してました……ではなくて、なぜこれほどの労力を掛けて、推せるものなのでしょうか。
古くは江戸時代にすでにフィギュアがありましたし、歌舞伎の「推し」役者の浮世絵が飛ぶように売れました。また「かぶきをどり」のような、今で言う野外フェスも一般市民の間で大流行しました。裏には幕藩体制への不満があったと言います。いつの時代も人間というものはそんなに変わらないのだと思います。

さて、本作は「推し」を推すことに全てを捧げ、生活までも崩れていってしまう女子高生あかりの物語です。推し活をする事を自分の業とまで言い切ります。
極めて現代的な点は、現実の生活に満足感や自己肯定感を得ていないところにあります。
アニメにハマりすぎたり、声優を目指す夢を語る人の中に少なからず存在しています。もちろん全然そうじゃない人が大多数ですが。
推しを推すことで、推しに自分を重ねることで、自分を保っていける、そんな鬼気迫るものを感じました。あかりの描写の中にも保健室登校や心療内科に通っていることをうかがわせるものがあります。
でも、あかりは全然駄目なんかじゃない。アルバイトだってしているし、ブログの文章なんかもかなり上手。コミュニケーションもどうしてなかなか。ここがどうにもならなくなっている人との違い。本気になれば推しのことを詳細に調べてすごい量のファイルにまとめることができる。世の中で生きていくストロングポイントは十分にある。
「推し」を失ったことが、あかりにとって本当のスタートになるのだと思います。
少しずつ現実とも折り合いをつけていって、いつかあんなこともあったっけな、と振り返れる日が来るのではないでしょうか。
あかりの持ち味にはやく気づいて、リアルな世界の方でも充実感をつかんでほしいと思いました。

「推し活」のリアルをはじめて知りました。今のアニメ文化は秋葉原だけでなく、池袋がすごいそうなのですね。私もちょっと見に行こうかなと思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年1月18日
読了日 : 2024年1月18日
本棚登録日 : 2024年1月18日

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