風に舞いあがるビニールシート

著者 :
  • 文藝春秋 (2006年5月31日発売)
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本棚登録 : 2979
感想 : 575
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森絵都さんの短編が6つ収められた作品。

どの話も決して明るくはない話題を重すぎない筆致で綴られ、
最終的には少し光が差し込む感じにまとめられているので、読後感がよい。

どの話の主人公も、
情熱、というと大袈裟かもしれないけど、それを傾けられる何かがあって、
そこへのアプローチは様々だけど、
等身大の愛すべき人々でした。

かつての私も、夢中になって追いかけるものがあって、
でも、1つかけ違えたボタンによって、
夢中が故に自分を傷つける結果になりました。
今は方向転換をし始めるタイミングにいるので、
「鐘の音」には他の話とは違う共感と希望を抱きました。



でもやっぱり一番ぐっと来たのは風に舞うビニールシート。
国連難民高等弁務官事務所という、もはや一般企業の常識の範疇を超えた、
ある種の使命感なくしてはできない仕事をとりまく家族の感情が、どんどん心のなかに入ってきました。
当人が言ってる意味は頭ではわかる。でも、家族の立場で、心からの納得は簡単にはできない。
そこから、物語のゴールに向かっていくときの心の機微がとても自然でした。

中学生以来に久々に森さんの小説を読みましたが、やはり好きな作家さんです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年9月15日
読了日 : 2023年9月15日
本棚登録日 : 2023年9月15日

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