ある男

著者 :
  • 文藝春秋 (2018年9月28日発売)
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戸籍って、絶対的なものだと思っていた。
自分が自分であることの、絶対的な証。
その前提が崩れると、何もかもが信じられなくなりそうだった。

普通の人間になりたい。普通の人生を送りたい。
自分ではない誰か別人としての生き方をしたい。
なんて切実な願いなんだろう。
愛に過去は、きっと必要ない。


そして、関東大震災と国籍差別。
恥ずかしながら「十五円五十銭」と発音させ、正しく言えなかった者は朝鮮人だとして殺すべき対象となる、そんなおぞましい事件があったことは全く知らず、驚愕した。
ネットで検索をすると、1番に作者の平野さんのツイートが出てきて、そんな一個人のツイートがトップに来るくらい、それについての説明は少なく、広まっていないのだなと感じた。

差別や偏見。
結局人は、自分の都合のいいように相手のことを信じたり疑ったりしてるんだなと思った。

タイトルにも納得。
「ある日本人」でも「ある弁護士」でも「ある○○○」でもなく、「ある男」。
そこにスティグマを付けない。一貫している。

ナルキッソスのエピソードが印象的。ギリシャ神話と結びつけるとは。

重厚で、重たい話だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文藝春秋
感想投稿日 : 2021年10月31日
読了日 : 2021年10月31日
本棚登録日 : 2021年10月31日

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