父親が大塩平八郎の乱に連座して、六歳で罪人となり十五歳で隠岐島に流罪となった西村常太郎。だがそこは、決して暗澹とした流刑地ではなく、島の守り神「狗賓(ぐひん)」の住まう土地だった。松江藩の過酷な収奪に喘ぐ島の人々は常太郎を支援し、大切に育ててくれる。やがて医師となり、島の安寧に寄与するようになった常太郎は、流人というよりも一介の島人として島の変転を目撃する。
大塩平八郎の乱の経緯、疱瘡(天然痘)を予防するために牛痘種痘法を導入する過程、そして明治維新によって松江藩支配から脱却するところまで、時代は流れていく。
隠岐島に上陸した日から、故郷へは二度と還れることはないと覚悟した十五歳の少年の思いが、この島を支配する収奪のシステムと相待って心に迫る。"全てのツケは細民に押し付けられる"という不条理な現実。私達が今見ている現実も、本質はあまり変わっていないのかもしれない。それでも前を向こうとする人々の姿には、やはり勇気付けられる何かがある。有るか無いかすらわからない希望。それは"生きている事""生き続けている事"にしか根拠がない。
"生きよう"とする、歴史には決して名を残す事のない人々を描いた大作です。
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- 感想投稿日 : 2023年6月1日
- 読了日 : 2023年6月1日
- 本棚登録日 : 2023年6月1日
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