博士の愛した数式 (新潮文庫)

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  • 新潮社 (2005年11月26日発売)
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 祖父と孫くらい年が離れた博士とルート君の友情に心が温まりました。未亡人の恋心もいじらしい。

 博士が「いかん。子供をいじめてはいかん。」と言いながらメモに書いた〝オイラーの等式〟。博士が示したかった意味は何か、謎を解くヒントになりそうな箇所を私なりに抜粋します。
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【159ページ抜粋】
「実生活に役に立たないからこそ、数学の秩序は美しいのだ」と博士が言ったのを思い出す。
(中略)
「物質にも自然現象にも感情にも左右されない、永遠の真実は、目に見えないのだ。」

【178ページ抜粋】
博士が幼い者に向けた愛情の純粋さには、言葉を失う。それはオイラーの公式が不変であると同じくらい、永遠の真実である。

【195ページ抜粋】
「0が驚異的なのは、記号や基準だけでなく、正真正銘の数である、という点なのだ。(中略) 0が登場しても、計算規則の統一性は決して乱されない。それどころか、ますます矛盾のなさが強調され、秩序が強固になる。(中略)1-1=0美しいと思わないかい?」
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 〝オイラーの等式〟は、解析学(ネイピア数e=2.71…)、代数学(虚数単位i)、幾何学(円周率π=3.14…)、乗法単位元(1)、加法単位元(0)、5つがキレイに等式で1つにまとまっています。eとiとπが、1や0のシンプルな数字に着地するなんて、数学がわからない私にも凄さは伝わります。

 無秩序の数字が本能的に収まりが悪く感じるように、私(家政婦)と未亡人の口喧嘩は良くないことと博士は示したかったのではないでしょうか。〝オイラーの等式〟を図で示すと、中心に〝0〟が鎮座します。愛情のように、人として大事にしないといけない軸を意味していると私は想像しました。あと、オイラーの等式に表れる三角形と、過去と現在の(恋愛の)三角関係をかけたのか‥?(←たぶんコレは違う)

 余談ですが、通常の小説には登場人物たちの「氏名」が出てきますが、本書では「私(家政婦)、息子(ルート)、博士、未亡人」となっています。何か意図が隠されているのか気になりました。素数のように、余計な要素を削り落とし、最低限の登場人物の識別だけを意図したのでしょうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学(日本_現代)
感想投稿日 : 2022年8月11日
読了日 : 2022年8月4日
本棚登録日 : 2022年7月31日

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