脳科学は人格を変えられるか?

制作 : ElaineFox 
  • 文藝春秋 (2014年7月25日発売)
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感想 : 41
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「世界をどう見るか」を変えれば、脳に変化をもたらし、人格を変えられる。
変えられるのは人格だけでなく、これは心理学が解き明かしたシンプルな事実なのだが、物事をどう見るか、そしてそれにどう反応するかによって、実際に起きることも変えられるのだ。
本書で紹介される「レニーブレイン」や「サニーブレイン」は誰の脳内にもあって、お互いにせめぎあうことで、ものごとの認識にバイアスを生み、その人独自の「アフェクティブ・マインドセット」、つまり思考や感情のスタイルが形作られ、楽観的な気質や悲観的な気質の違いをもたらしている。

「子どもがどんな社会に生きることになるかは、運や偶然では決まらない。その子の感情のスタイルが、その子をとりまく世界を規定する。世界にどう向きあうかによって環境は変化し、どんなチャンスに巡りあうか、どんな問題に遭遇するかも変化するのだ」

悲観的な気質だからといって悪い面ばかりでもないし、いつも悲しみや不安に苛まれているわけではない。
時には大きな喜びや幸福を感じ、未来に希望も抱くのだが、常にどこかに危険はないかとたえず気を配っているため、リスクを冒すよりは安全な道を選びたがる。
しかし度が過ぎればもちろんマイナスで、慎重の度合いが過ぎれば決断に時間がかかるし、「自分は嫌われているのだ」との思い込みが強いと、ネガティブな思考のスパイラルが起こり、悲観的な心の傾向にさらに拍車がかかる。
悪いニュースばかりを感知しているから不安におちいるのではなく、悪いニュースの方が不安症の人を引き寄せているという面もあるのだ。

楽観的な気質だからといって良い面ばかりでもない。
やみくもな楽観や「悪いことはぜったい起こらない」という安易な思い込みでは、リスクを正しく評価することが出来ない。
楽観がプラスに作用するのは、適度なリアリズムと結びつき、良いことも悪いことも受け入れる能力があるときだけで、ただハッピーな思考をするから良いことが起きるなんてことはありえない。
真の楽観主義者とは、ただ上機嫌でいることではなく、意義深い生活に積極的にかかわり、打たれ強い心を育み、「自分で状況をコントロールできる」という気持ちを持ちつづける人だ。
未来に真の希望を抱き、悪いことが起きてもかならず対処できると強く信じる、運命の手綱を自分で握って離さない人たちだ。

・人間の脳はそもそも未来に常に希望を抱くように配線されている。
・楽観こそが、毎朝人間が寝床から起きあがるのを可能にする力。
・何に目をとめるかで世界観ぜんたいが変わる。
・その人の核にある信念に合致しないものごとは、目の前にあっても認識されない。
・抑うつの人々は快楽を感じられないというよりも、快感の維持が不得手なのだ。

本書でも、「エピジェティクス」が重要なキーワードとして登場するのだが、人間のDNAを図書館の本になぞらえて解説していて、抜群にわかりやすかった。
そうか、そこにあるのに発現しない遺伝子は、誰からも読まれないまま埃をかぶった本と同じなんだ。
仲野本でよくわからなかった「DNAのメチル化」も、ようやくイメージすることができた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年5月29日
読了日 : 2014年9月16日
本棚登録日 : 2015年5月29日

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