月子は高校時代国語教師だったセンセイと居酒屋で再会します。センセイ自身も、居酒屋で交わされる会話も穏やかで心地がいいのにセンセイには近づけそうで親密になれない‥ 。月子はある梅雨入りの日、わたしセンセイが好きなんだもの と告白します。 若くないからこそのスローで丁寧な恋愛のお話です。
「たとえば、身の丈ちょうどの服を何枚もあつらえたはずなのに、いざ実際に着てみると、あるものはつんつるてんだったり、あるものを裾を長く引きずってしまったりする。驚いて服を脱ぎ体にただ当ててみれば、やはりどれもちょうど身の丈の長さである。」
それでいいはずなのに断言していいと言い切れず自分を疑うようなこの感覚。絶妙に文章にされていて手にとるように共感しました。
「わたしがセンセイのことを思って悶々としていた間、センセイは蛸のことなぞで悶々としていたのである。」
傍目にはくすっとしますが、当人の月子なら恨みがましくセンセイを見つめてしまいそうです。そんなもんなんだなあ、なんて気が抜けつつ自分の悶々とした時間すら後で愛おしく感じられそうなシーンです。
この小説では恋愛のいちばんおいしいところ、出会って、仲良くなって、ヤキモキして、もっとこういうことが起きて欲しいと願うようなところが多く描かれています。このままなのかな?と思いきや、読者にとってもご褒美のような甘い結末に向かいます。ラストは‥。 月子と一緒に楽しい時間を過ごせてほっこりしましました。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
未設定
- 感想投稿日 : 2020年12月6日
- 読了日 : 2020年12月6日
- 本棚登録日 : 2020年12月6日
みんなの感想をみる