それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫)

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  • 新潮社 (2016年6月26日発売)
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「日清戦争」「日露戦争」「第一次世界大戦」「満州事変と日中戦争」「太平洋戦争」の五章立てで近代日本の戦争を振り返る。東京大学の教員である著者が、2009年頃に栄光学園において歴史研究部の中学一年生から高校二年生の20名ほどの学生向けに行った特別講義の書籍化である。要所で学生たちに問いかけを行い、質疑応答を繰り返しながら理解を深める箇所が進行上の特色である。

書店でたびたび面陳列されているのを見かけて気になっていたところに、昨年の学術会議問題もあって関心が高まった。そのような流れの読書だったため、反戦色の強い内容なのかを確認することも読書の動機のひとつだった。序章の時点で「人は過去の出来事について、誤った評価や教訓を導き出すことが多い」といった戒めの言葉を掲げており、全体を通しても、あくまで事実を検証することに重きを置いていると感じた。

五章に分けられた戦争の歴史のなかでは、第一次世界大戦の終戦を受けて開催されたパリ講和会議で日本の指導者層が受けたある種の「傷」を重視する見方がポイントではないだろうか。その後の「満州事変と日中戦争」「太平洋戦争」については、基本的には「なぜ起こるべきではない戦争がなぜ起こってしまったか」といったスタンスに転じているように思える。他方、第一次世界大戦以前の日本の戦争参加については、マーク・ピーティー氏の「日本の植民地はすべて、その獲得が日本の戦略的利益に合致するという最高レベルの慎重な決定に基づいて領有された」という言葉を紹介するなど、他の欧米の帝国主義国家に比べれば常識的な範囲内の判断とする捉え方は、意外であるとともに印象に残った。

書籍のタイトルを「日本」ではなく「日本人」としているところから、日本の一般大衆寄りの視点での振り返りにも期待していた。所々で学校や新聞紙上のアンケート結果や、一部の文化人の声を紹介するといったあたりに、民衆の意識を窺わせる要素も散りばめられているが、全体としてはわずかに留まった。中心となるのはやはり、政治家、軍人、天皇などといった、政治の中枢にいた指導者たちの言動であり、個人的にタイトルから期待していた側面については十分には満たされずに終った。

序章にもある、歴史から誤用をせずに正確な教訓を導かなくてはならないという訴えが、全体にも通底する本書最大のメッセージのひとつだろう。ただし、著者が示すようにかなり優秀で教養のある人物であっても、歴史の捉え方についてはたびたび過ちを起こした過去を鑑みれば、歴史を正確に考察する作業は一般人にとってはかなり困難な課題だと思える。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年4月12日
読了日 : 2021年4月12日
本棚登録日 : 2021年4月12日

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