工学部の助教授から作家へ転身し、その後自分自身の人生におけるアプトプットを完結させるため、そのいずれもを卒業し、工作や庭造りなどを謳歌しておられるという著者。
自由な発想で生きておられる自由人的なイメージがあり、そういう人の読書論はどのようなものだろうかと興味があり読んでみた。
これは、森氏の得意とする書き下しスタイルの本のイメージだ。「1時間に6000文字を打つ作家」ということは自他とも認識されているようで、本書もネタの仕込みやなんかを除いて、ただ文章を書いている期間としては1週間程度であったということがどこかに書かれていたと思う。
これは著者のロング・エッセイだなというのが、読後の感想だ。得意の自由な発想を飛ばし、次々と思い浮かんだことを綴っていく、そんな風にして書き上げられた一冊ではないか?
森氏は、読書とは場所や時代を超えて著者と対話することというニュアンスのことを述べていた。たくさんの友人を手軽に作るようなものだもと言われていた。
本選びについて、本は自分で選べ。それ以外ありえないと。自分の友人を人に選んでもらうのかというような話だった。
しかし、これらは真っ当な意見で、特別ユニークさを感じるものでもなかった。自身もほぼ同じ考えだ。
人に勧められて本を読むとか、新聞・雑誌の書評を読んで本を選ぶとかそういうことはしないそうであるが、そこまで徹底することには少しユニークさを感じる。
小説家であるが、小説家であるがゆえに、他人の小説は一切読まないそうである。これは、自身のオリジナルな自由な発想を生み出すためのご自身の方法なのだと思う。そういうところにも少しユニークさを感じる。
最も印象に残ったのは、どんな本にも「感謝する」と言われたところだ。どんなくだらない本にも、少しは興味深いところがある。何か新しいものを知ることができたり、何かの気づきが得られたり、新たな発想が生まれるもととなったりと、そういう収穫があれば、それで感謝に値すると言われていた。
逆に、そのような気持ちで読書を楽しめるのが森氏の自由さであり、さらにその特長をより強化していけるのだろうと思えた。
後半、これから電子書籍の時代がさらに発展し、AIなどと連動し、未来型の本が登場するというSF的な展開の話があったが、このあたりは著者が仕込んだネタから小説化していくプロセスをわずかに体験できたような感触である。
本書を執筆された時点で60歳。ますます興味は広がるばかりとおっしゃっていた。
本書から読書術のようなテクニカルな面での新情報は特になかったように感じるが、「自由な発想」で読書する姿勢が、多くの価値創造につながるのだという生き方みたいなところが参考になった。
従って「読書の価値」というタイトルには納得。
- 感想投稿日 : 2020年9月19日
- 読了日 : 2020年9月19日
- 本棚登録日 : 2020年5月25日
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