文春新書の「父が子に教える昭和史 あの戦争36のなぜ?」を読んだ後に、本書を読んだ。ある程度、戦争に関する知識の下地ができたうえで本書を読めたことが非常によかったと思う。
本書は、昭和5年生まれ(今年で90歳)の著者・半藤一利氏の著書から、本書のテーマ「歴史と戦争」にあった文章をセレクトして、一書に編集されたものだ。幕末・維新・明治から近代にいたるまで、特に近代では一年ごとに、その時を述べた著者の文章がセレクトされている。
著者のすべての著書の中から、文章をセレクトし、それを時系列にプロットしつつ、全体として一つの読み物として完成させる、この膨大な作業に対し編集者に敬意を表するとともに、その完成度の高さにも感謝を述べたい気持ちだ。
セレクトされた文書のすべてのその出典が示されているので、著者の原書に戻ってもみたくなる。
ダイジェスト的でありながら、様々な角度から学びが得られる。知識としての発見もあれば、考え方に対する新たな気づきが得られることもある。
例えば満州事変の発端となった「柳条湖事件」。我々が習った頃は「柳条溝事件」と教科書に書かれていた。この一文字の「ん?」が、その訂正された理由とか、この事件が日本の関東軍の自作自演だったことなどを再確認するきっかけとなった。
零戦の戦闘能力が高かったのは、人命を軽視して、機体の軽量化を図ったこと、同様に戦艦大和が攻撃力は世界一だったにも関わらず、対空防御に弱かったことなど、戦時中の思想が異常へと傾いていたことを知ることができる。
真珠湾攻撃での奇襲で戦果を得たことを、小林秀雄や亀井勝一郎や横山利一など日本を代表する作家がもろ手を挙げて大喜びしていたという事実を知り、どんな人であれ環境に翻弄されてしまうものなんだなぁと驚きさえあった。
その背景には情報操作というものがあった。当時のマスコミは、人心をコントロールするためのツールでしかなかったような印象を受ける。
「ノモンハン事件」が、陸軍エリートの過信や驕慢や無知から引き起こされた無責任な事件であったことを知る。
フランスの社会心理学者ル・ボンの「群集心理」を引用し、個人が群集にることで集団精神というものが生まれ、衝動的となり、動揺しやすくなり、興奮しやすくなり、暗示を受けやすくなり・・・と、当時の狂気の思想が成り立つ仕組みを解説してくれる。
日米戦の真実を語る石原莞爾の言葉。「この戦争は負けますなぁ。財布に千円しかないのに一万円の買い物をしようとしてるんだから負けるに決まってる。アメリカは百万円を持ってて一万円の買い物をしている」
なぜ「終戦」と呼ぶのか。「敗戦」という表現を嫌ったから。毎年、「終戦記念日」という言葉になんの違和感もなしに過ごしてきたが、そこにはそんな秘密があったのだと知った。しかし、著者はむしろ、民衆にとっては「戦争が終わった」という意味で、この言葉は良かったと述べている。
東京大空襲を指揮した男(米・空軍大将カーチス・イー・ルメイ)に旭日大綬章が授与されている事実を本書で取り上げ指摘している。推薦したのは小泉純一郎の父・当時の防衛庁長官・小泉純也らしい。カーチス。ルメイは、原爆投下についても、戦争を早く終結で来たメリットをいうような男でもある。
こういう半藤氏の視点に共感を覚えるのであり、氏の著書には読後の後味が非常に良く感じる。
最後に印象に残った著者の言葉二つ。考えさせられる言葉である。
・戦前や戦中は、「人間いかに生くべきか」ではなく、政治や軍事が人間をいかに強引に動かしたかの物語であった。
・反省のない元軍人に対し、勝海舟の次の言葉を引用していた。「忠義の士というものがあって、国をつぶすのだ」
- 感想投稿日 : 2020年12月16日
- 読了日 : 2020年12月15日
- 本棚登録日 : 2020年11月22日
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