河童

著者 :
  • 2012年9月27日発売
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感想 : 64
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こちらもオーディオブックで聴読。

著名な文学作品でタイトルは聞いたことがあっても未読の作品を、こうして朗読してもらって読む(聴く)というのはなかなかいいものだ。いい大人になって、読み聞かせを楽しませてもらっているような気分である。

芥川龍之介って、想像力豊かな作家さんだったのだなと改めて思った。はじめは独創的なSF作品かと思ったが、どうやら背景に様々な著者の思いや人間社会に対する風刺が埋め込まれた緻密な作品のようである。

仮想世界を描いていながら、非常にリアリティを感じるストーリーだ。河童の世界の映像が浮かんできて、あたかも河童の世界で暮らしているかのような錯覚に引き込まれていく。そんな世界がはるはずもないのに、あるかのような気分になってしまう。

河童の社会は、人間社会と見かけ上、非常に類似していたが、倫理を無視して合理性のみを考えると、人間社会よりもずいぶん先を行ってる感じがした。この空想力には凄みを感じてしまう。

例えば、河童の社会では、新しい生命が宿ったとき、体内にいるその生命に、生まれてきたいかどうかの意思確認をし、生まれてこないという選択もできる。

例えば、現在の人間社会においては、出産前検診というのがある。その検査の結果に基づいて生まれてこうようとしている生命を、本人以外の意思により操作する(表現はよくないかもしれないが)。倫理面においても何か課題がありそうに思える。

あるいは、現在の親による子どもの虐待などのニュースを見ていると、河童社会のように子ども側に親の選択権があることのほうが合理的に思える。

河童の社会のほうが、先を行っているように思えるのである。

また、別のシーンでは書籍出版をはじめ、様々な業界で、高度技術による機械化のようなことが進められている。文明、技術において河童社会は、人間社会より高度化されているのである。

そしてそのような産業上の高度化により、職工などの余剰が生じ、それらの余剰の河童は、合法的に屠殺され食肉として活用されるというようなシーンが表現されている。

「ロボット」という言葉が1920年頃ブームとなっていることから、この作品が生まれた当時も、労働力がロボットにとってかわられるというような風潮があったのかもしれないが、現代社会におけるロボティクスの導入やAI化などによるリストラ問題をも予言しているようにも思える。

しかも河童社会では、リストラにとどまらず、合法的に屠殺されて食肉とされるというのだから、恐るべき合理主義である。さらにはリストラの苦しみを省略するためめ、ガスによる安楽死を選択させることになっており、それが合法であって、共通の合意があるというのだから、人間界の倫理を無視して考えれば、すごいシステムが構築されているということもできる。

たまたま読み聞かせてもらった作品だったが、よくもまぁこんなストーリーを考え付くものだと、芥川の想像力に感嘆してしまった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 芥川龍之介
感想投稿日 : 2021年10月6日
読了日 : 2021年10月3日
本棚登録日 : 2021年10月3日

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