ヒトはなぜ絵を描くのか――芸術認知科学への招待 (岩波科学ライブラリー)

著者 :
  • 岩波書店 (2014年2月5日発売)
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先日観劇したお芝居の演者さんがあまりにも素晴らしくて、帰宅早々その方のイラストを描いた。
人物なんかは簡略化したフォルムでしか描けないが絵に向き合っている間は本当に楽しく、描き終わる頃には「あの感動をせめて等身大で、あわよくばそれ以上に表現できるようになりたい」と、妄想がえらく飛躍していた。
漫画を読まないようにしているのもそのためである。人一倍どハマりするばかりか、自分もファンアートを描いてみたいと冗談抜きで寝食を忘れてペンを走らせかねない…。(正気に戻った時が一番恐いけど笑)

その気持ちの興りはどこから来るのか。今もついて離れない妄想を分散させるつもりで本書を取り寄せた。
「絵を描く」という行為を芸術と科学の観点から考察するというもの。「描きたいから描くんだ!」と言ってしまえばそれまでだが、奥部まで突き詰めていけばもっと面白い答えが見つかるかもしれない。
いつも以上に明快な動機を胸にページをめくった。

タイトルの「芸術認知科学」とは著者(現 京都藝大教授)が命名した、一見相反する芸術(「感性」)と科学(「知性」)の関係性を追求していく分野のこと。
ラスコーやアルタミラといった洞窟絵画を起点に、チンパンジーとヒトの子供の描画を比較した実験の様子を展開している。
目的は不明瞭なものの岩の凹凸を動物に見立てたり画材のバリエーションも豊富、我々の祖先は早々に描画の楽しさに目覚めていた。実験でも空白のスペースに何かを描き入れるのは人間にしかできないことで、想像力、すなわち「ない」ものをイメージする力に長けているという結果が出ている。

前半は期待していたような「答え」は得られなかったが、ヒトが絵を描く行為に関心を寄せていくプロセスが肌で感じ取れた。
後半の第4章「なぜ描くのか」と第5章「想像する芸術」では、絵を描きたい(あるいはその他アート作品を制作したい)という衝動がフォーカスされており、何度か冒頭の自分と重ねていた。

ヒトの子供の例ではあるが、絵筆の動かし方によって変わる描線を「探索」したり絵具の香りを感じたりと、五感をフル稼働させる。そうして世界を知っていくことが絵を描く「おもしろさ」に繋がるんだと著者は述べている。
完成後を眺めるのも好きだけど、描いている時が一番楽しいというのは激しく同意だ。

極めつけは、美術家 内藤礼さんの言葉。
「自分が感じたことをアートの中に表現したい。別にだれがしなくてもいいのだけれど、やらずにはいられない」
美しいもの、すなわち新しい世界を知った時に身体に流れ込んでくるあの衝動。衝動が筆を動かす原動力となり、それは心ゆくまで止まらない。

結局「描きたいから描くんだ!」に終着しそうな雲行きだが、描いている時の「おもしろさ」も彼女は渇望しているはず。そう(描きたいという志だけは同じ)自分は睨んでいる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年3月27日
読了日 : 2023年3月27日
本棚登録日 : 2023年3月27日

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