「統治」を創造する 新しい公共/オープンガバメント/リーク社会

  • 春秋社 (2011年12月21日発売)
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IT社会のもたらす新たな”統治”の形を、「新しい公共/オープンガバメント/リーク社会」という3つのキーワードから提示する意欲作。
寄稿者の幅が広いという理由もあるが、理念的なことから実践的なことまで、そして法律からビジネスそして文学までカバーしており、政治・統治に関わる問題領域の広さと深さが体現されている。
上記の3つのキーワードは並置されているが、全体を通しての主軸は「オープンガバメント」であり、それを支える「リーク社会」と、それがもたらす「新しい公共」が付随的に論じられているという印象。
しかしながら、「オープンガバメント」という概念自体が新しく、浸透し切っていない段階において、うってつけの「オープンガバメント入門書」と言えると思う。

序章西田論文による現状の統治のあり方に対する問題提起からはじまり、第1部はオープンガバメントの導入となっている。
「オープンガバメント」とは何かと問われると、基本的には
・政府の持つ情報の公開(=政府のプラットフォーム化)
・それを利用して民間サービスが活発化、人々の政治参加が活発化
(=「新しい公共」の活性化)
の2点に集約される。
ところが、概念の新しさゆえに、この2軸から枝葉のように伸びるメリット・デメリットが点在していて、それらを各論文が拾い集めていく。

谷本論文は「熟議」をひとつのキーワードとしつつ、純粋に政治の観点からオープンガバメントを吟味するのに対し、塚越論文はウィキリークスを題材に、情報公開に関わる正当性/正統性といった観点からオープンガバメントの効用を説いた。
一方で、淵田論文と吉野論文は、「オープンガバメント」の重要性を社会思想の点から裏づける。
淵田論文が東浩紀『一般意思2.0』の紹介に終わってしまっている点が少々残念だが、同書が文脈的に重要であるのことは間違いないのでやむをえないともいえる。というのも、谷本論文も文部科学省の「熟議カケアイ」を引き合いに出しつつ、インターネットを介したやりとりとリアルのやりとりの相乗効果に期待をかけているからである。この相乗効果に関しては、評者も民主主義の強化につながるものとして、可能性を求めるところである。

第2部はより実践的な側面に軸足を移す。
西田論文は寄付文化に、藤沢論文は東日本大震災への対応に、どのように「オープンガバメント」的なものが利用されたかを検証する。例が身近で非常に分かりやすい。とくに藤沢論文は、以前『思想地図β2』で読んだ津田論文と通底するものがあり、面白い。
その後、池貝論文が少し視点を変えてオープンガバメントと著作権の問題に視点を当て、さらにイケダ論文がビジネスの方向へ舵を切る。「オープンガバメント」のはらむ問題や可能性が、政治/統治にとどまらないことを示している点で、池貝・イケダの論文は重要である。

そして第3部に「もう一度考える」と称してぽつん、と入った円堂論文。
執筆者の幅が広いとはいえ、やはり文芸・音楽評論家は他と比べても異色である。
しかし、第1部・第2部が「オープンガバメント」による”「統治」の創造”を、ポジティブに、現在を中心に論じているのに対し、文芸を題材に、新たな動きをより慎重に、歴史的な経緯も絡めて論じていることに好感を持てた。ちょっと不思議な構成だが、悪くない。


というわけで、敬称略でざっと内容をさらってみた。
以下、個人的な感想を2点ほど述べたい。

1つは、「オープンガバメント」の前提となる情報の透明化がはらむ問題を、負の側面として検討して欲しかった。
今さら抵抗があるわけではないが、個人の嗜好・行動のすべての情報が集積されるようになる「プライバシーの消失」が、この手の論議にいつも気になってしまうたちである。

2つは、やはり新しい”「統治」の創造”に可能性を感じる点で非常に面白かったということ。
本を読んでみて、わたしの期待を最も端的に表しているのは、第6章藤沢論文の最終部分である。
「オープンガバメント」のもたらす政府の情報公開は、市民自らの手によるアジェンダ設定・熟議を可能とする。このことは、市民が自ら「政治/統治」という公共を担うことを可能にし、ひいては政府に自らの提案をつきつけ、動かしていくことを可能にする。議論の提示を待つのでは遅い、こちらから議論を引き出せ、ということである。これこそが民主主義の真骨頂であり、それは新しいけど古い。

動かし方は分かった。あとは「統治を逆回転」させるだけ――そんな段階に来ていると思うと、やりがいがあるし、面白いのではないだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治
感想投稿日 : 2012年2月21日
読了日 : 2012年2月21日
本棚登録日 : 2012年2月21日

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