アルファベット・ハウス (ハヤカワ・ミステリ)

  • 早川書房 (2015年10月7日発売)
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本棚登録 : 200
感想 : 27
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特捜部Qシリーズの作者、オールスンのデビュー作。第二次世界大戦末期のドイツの病院を舞台にする前半と、それから30年近く経った70年代初めを描く後半の二部構成。第一部ではドイツ軍の機密施設を戦闘機で低空飛行して撮影するという危険な任務を負わされた若いイギリス兵二人が、任務に失敗し傷病者を運ぶ列車に潜り込みドイツ兵になりすまして生き延びたものの、入院先は重度の精神障害を負ったナチ将校たちが収容される特殊な病院で、そこで身を偽りながら精神疾患のフリをし続けるという二重の偽装を重ねて死を免れようとするさまが描かれます。戦争は悲惨なだけでなく犯罪者にとっては通常の世より悪事を働きやすく邪魔者を始末しやすいという側面もあり、主人公の二人の他にも戦時の混乱を利用して私腹を肥やすサディストのグループが前線に送られるのを免れようとやはり偽患者として身を隠していて、目を点けられた若い二人はこの悪人たちに酷い虐待を受けるので、過激な電気療法と無計画な投薬で正気と精気を保とうとするだけでも最悪なのに、読んでいてすごく気が滅入りました。しんどい前半が終わると、後半は映画さながらの展開もあり読みやすいのですが、それでも著者がテーマとして扱った「人間関係の亀裂」が淡々と描かれ、映画のようなハッピーエンドやカタルシスは得られないのでした。それでも続きを読むのをやめる気になかなかなれないあたり、この作家のすごいところだと思いました。面白かった、と素直に言いにくいのですが、大変読みごたえがありました。へとへとになって読了。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: サスペンス
感想投稿日 : 2021年4月21日
読了日 : 2021年4月19日
本棚登録日 : 2021年4月19日

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