小さな異邦人

著者 :
  • 文藝春秋 (2014年3月10日発売)
3.18
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本棚登録 : 413
感想 : 87
5

ミステリー&恋愛小説の名手からの最後の贈り物
8人の子供と母親からなる家族へかかってきた1本の脅迫電話
「子供の命は預かった、3千万円を用意しろ」
だが、家には子供全員が揃っていた!?
生涯最後の短篇小説にして、なお誘拐ミステリーの新境地を開く表題作など全8篇

帯にもあるように、ミステリと恋愛要素が複雑に絡み合う短編集。
すべて「オール讀物」に掲載されたもので、
最新作が2009年のものであることから、著者の逝去で出版されたものだと推察される。
前評判にも頷くばかりの傑作集。

■指飾り(2000.11)
 街中で見かけた女の後ろ姿は、別れた妻のものと似ていた。
その後をつい追いかけてしまうと、信号待ちで見せつけるように、女は後ろ手で指輪を外した。
たまたま出くわした職場の同僚の女に妻との経緯を語ることになるが……。
 収録作中最もミステリ色が薄いと感じるものの、ある女の気取った演出がなんとも。

■無人駅(2001.8)
 新潟県の無人の駅に降り立った女は奇妙な行動を取り続ける。
タクシーで、おもちゃ屋で、居酒屋での不審な行動を監視することになる私。
彼女と共に今夜現れると目される男は、時効成立寸前の事件の犯人だった……。
 最後の最後まで、女の奇妙な行動に振り回され続ける私だが、時効成立間際の駆け引きが実にスリリング。
何が起こっている(いた)のか、まったく気づけない。

■蘭が枯れるまで(2002.7)
 乾有希子は、造花教室で知り合った石田多恵と意気投合する。
語りかけてくれたのは彼女の方で、後ろ姿が似ていたからだとも。
親密になっていく二人が、日常の不満を軽口で喋りあっていたときに、ふとした拍子に出た「交換殺人」の話題……。
 有希子が語るある殺人事件は、やがて本人さえも奇妙な魔術にかかってしまったかのような捻れを引き起こす。これは二読しないと訳が分からないだろう。

■冬薔薇(2004.11)
 夢から覚めた悠子は、自分がこれからどこに向かい何をするのかが混沌とした記憶の世界に生きている。予知される事件。一体この世界では何が起こっているのか。
 最後に「現実と夢の境界線上を綱渡りでもしているような心地で……」と私が語るように、収録作中随一の奇妙さを感じさせる。

■風の誤算(2005.2)
 沢野響子は水島課長の噂の真偽を図りかねていた。曰く暴力団と関係がある、曰くエレベータ内でセクハラまがいの行動をとる、などなど。
日に日に課長への疑わしさは増していくが、通り魔事件の犯人であるとの噂が流れ……。
 閉鎖空間での噂がどうなるものか、ある意味でホラーで奇妙な一作。

■白雨(2005.7)
 縞木乃里子は陰湿ないじめを受けていた。
はじめは一緒に撮られたはずの写真から自分だけいなくなった。
やがては屋上に呼び出されたのちに教室に入れなくされたり。
まるで「除け者」扱いだ。
それに呼応するかのように母親・千津の過去にある殺人事件が現在にも立ち上ってきた。真相を知るある男からの手紙……。
 一見にして無関係のはずの二つの事件が、こんな風に不思議な絡み方を見せるのも連城作品ならでは。

■さい涯てまで(2006.2)
 須崎の職場はJRで、窓口担当だ。職場の石塚康子と不倫関係にある。
ちょっとしたことがきっかけのよくあるかもしれない話。
しかし関係は割り切ったもので時折旅行することに決めた。徐々に北へと。
やがては日本最北端の宗谷岬で関係もオシマイのはずだったが、二人の関係を知る謎の女に、須崎は脅迫されることとなり……。
 冒頭から細かな伏線が張られた日常の謎〈旅情編〉とでも呼びたくなる一作。

■小さな異邦人(2009.6)
 
 帯にもある通り、誘拐ミステリーの新境地を開く一作。そうはいいつつ、実は結構あからさまな伏線で、真相に気づける人も意外と多いのかもしれない(自分は全く気付かなかった)。
何よりも秀逸なのはこの語り口にして、誰に語っているのか、ということ。
最後それが明かされた時にはもう溜息しか出ない。

ミステリ  :☆☆☆☆☆
ストーリー :☆☆☆☆☆
人物    :☆☆☆☆☆
文章    :☆☆☆☆☆

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 国内ミステリ
感想投稿日 : 2014年9月14日
読了日 : 2014年9月28日
本棚登録日 : 2014年9月14日

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