ドーン (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2012年5月15日発売)
3.69
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本棚登録 : 1582
感想 : 109
5

平野啓一郎くんの壮大な長編。
壮大すぎてレビューが長くなりそうだけど書いてみる。

舞台は21世紀半ばの近未来。
私たちは、いろいろなものが進化しすぎて複雑化し、世の中がこの先どこへ進んでいくか想像もつかないけど、小説の中ではやはりまだまだ世界は複雑に進化している。
整理すると…

○人類は火星に降り立つ
○アメリカはアフガン戦争に続き、「東アフリカ戦争」なるものに介入している
○東京大震災がおこり、甚大な被害が出た
○テレビ電話的なものが更に進化し、通話相手がホログラムで目の前に登場
○車は「自動運転レーン」を走ったりする(しかしウィルスによって事故ることも)
○「無領土国家」なるものが登場し、人々はアメリカ国籍や日本国籍を持ちながらもその国家“プラネット”の国民にもなれる。国連にも認められている
○コンタクトやサングラスで映像が観られる
○「散影」と言って、街中の防犯カメラの映像を誰でも検索して、顔認識機能などを使って人の足取りを追うことができる
○「AR」と言って、死んだ子どもの遺伝子情報をプログラムし、まるで本当に生きているかのように成長させることができる。ただし光でできているので触れない

などなど…
もっと面白い設定があって全部書きたいけどやめとく。

まぁこのような世界で、医師だった主人公の明日人は、まず東京大震災で息子をなくし、その後心の傷をいやすため(?)宇宙飛行士を目指すことに没頭し、2年半かけて火星への往復を果たしたのだが、その過程で様々なトラブルに見舞われる。
読み終わってみればやはり、これは壮大なようでシンプルな明日人個人の物語なのだと思うが、同時にアメリカの大統領選挙の駆け引きと宇宙開発事業との関係、それに巻き込まれる宇宙飛行士たちがドラマティックに描かれているし、大統領選で共和党が勝つのか民主党が勝のかによってこれからの世界の在り方が大きく左右されるため、個人の物語でありながら世界がどこへ向かうのか、善悪とは何かという物語でもある。
私たちはいかにして、「正しいこと」を選びとれば良いのか。
世界ははたして、「正しいこと(もの)」と「凶悪なこと(もの)」にはっきりと分けられるものなのか。
アメリカ的民主主義は本当に善なるものなのか。
また、この物語の中でもっとも大きなテーマだと思ったのは、私たちは、個人「individual」の中にいくつもの分人「dividual」を持っている、とされていること。
現代を生きる我々も、個人の中に多面性があることは認めているが、近未来はもっとはっきりと、相手やシーンによって「分人」を使い分けている。
職場にいるときの自分と、家族と一緒にいるときの自分は全く別物である、という認識だ。それに合わせて、特殊な整形技術で顔を変える人さえいる。
これは一見、荒唐無稽な設定のような気もするが、現代の私たちは、ネット上では本当の自分とはまったく違うキャラを演じていたりするので、それがますます進んでいくとこういうことにもなり得るのかも…と思った。
とにかく色々な面で興味深い。
明日人の陥る状況がひど過ぎて、もしかして最後には以前読んだ「決壊」のような結末になるのか!?と不安になったけど…最後はシンプルだけれども納得の結末でした。
最終章のタイトルが「永い瞬きの終わりに」だったので、こんなにも壮大な物語でありながら、ここまでの章は「永い瞬き」か!?深い!と思った。
やっぱりレビューが長くなりすぎた。
ちゃんと読んで下さった方、ありがとう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年7月31日
読了日 : -
本棚登録日 : 2021年7月31日

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