私の男 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋 (2010年4月9日発売)
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本棚登録 : 8388
感想 : 905
3

上野千鶴子さんの「女ぎらい」を読んで、そこに引用されているジェンダーに関する本をたくさんチェックした中の一つ。もちろん本書は良くない意味で引用されていた。「桜庭一樹」というペンネームでさえも、「女が男装したような名前」と書かれていた(←うろ覚えなのでちがっていたらごめんなさい)。私は桜庭一樹さんはあまり読んだことなくて、本屋さんにはたくさん並んでいるからもちろん名前は知っているけど男性だと思っていた。

ここからネタバレ注意です。

この小説は、父と娘の近親相姦のハナシです。セックスシーン(いわゆる挿入)は描かれていないけど、養父の淳悟と娘の花は、性的な関係にある。第1章では花がやっと、養父の呪縛から逃れ、結婚しようとするところ。その先どうなる?と思いきや、続く章は過去にさかのぼっていく。
2章は花と結婚しようとしている男が、二人をどう見ているか。そして彼の生い立ち。彼は裕福で厳格な家庭に育ったが、父親との関係は良くない。厳格で、「男とはこうあるべき」という考えが強く、息子が自分のようではないことに不満を抱いている。ここにも「父と子」の関係が描かれる。
3章は養父の淳悟が主体。娘と二人で、「キタ」から逃げたきた理由が分かる過去の回想や、再び罪を犯してしまう経緯が描かれる。
4章は再び花が主体で、花の、北海道での高校時代。養父の淳悟と二人、寄り添って(性的な関係で結ばれ)て生き、それを人に知られてしまう。
5章は淳悟の恋人の一人だった女性の話で、花がどんな女の子だったのか客観的に描く感じになっている。
6章は花が主体で、さらに過去にさかのぼって、津波で家族を失くし、淳悟の養女になる経緯が描かれる。淳悟が、孤児になった花を体育館で見つけた時点で、二人は強く、運命的に結びつけられているように読み取れる。実は花は、淳悟の「親戚」ということになっているが、淳悟が親戚に預けられていたときにそこの奥さんを孕ませた(?)子どもで、実の父娘であり、淳悟はそれが分かっているようなのだ。淳悟は震災で孤児になった花を見つける前から、彼女を想っていた。避難所の体育館で出会った瞬間から、二人はお互いを選び取る。
しかしそのことと、孤児の花を引き取った淳悟が、彼女を性的欲望の対象とすることをどう解釈すればよいのだろうか?
淳悟は花を「血の人形」と呼び、花は淳悟を「私の男」と呼ぶ。
淳悟は父を海で失くし、残された母に異常に厳しく育てられた。それまでは優しい母だったのに、父親の代わりになろうとする母が、豹変したのだ。(母も精神を病んでいたのだろう)。母の愛に飢え、その母も失くし、預けられた親戚の家で母親代わりの女性を犯した…?そしてその女性が産んだ娘を、更に自分の愛の対象とする…血の人形として…?
出生に秘密をもち、家族のなかで浮いていた花は、淳悟に「見つけてもらっ」て、救われた、と感じる。淳悟は自分のために何でもしてくれる。救い出してくれる、「私の男」。
予備知識なしでこの小説を読んだとして、自分がどう感じたかわからないけど、先に上野千鶴子さんの批評を読んでいたので、最初からずっと、気持ち悪くてグロテスクな小説だと感じてしまった。
花が結婚してどうなるのか、過去の罪とどう対峙するのかわからないまま、小説は過去にさかのぼって終わる。あぁ、未来を描いてほしかった。花はどうなるの?・・・と、気になりすぎるのだから、やはり素晴らしい小説なのだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年12月29日
読了日 : 2023年12月29日
本棚登録日 : 2023年11月26日

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