日本の路地を旅する (文春文庫 う 29-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (2012年6月8日発売)
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本棚登録 : 706
感想 : 66
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被差別部落問題ってなんとなくずっと心に引っかかっている。ふつうに学校の授業を受けている時間だけではこの言葉に出会ってこなかったと思う(ってもちろん私が聞いてなかっただけかもしれないけど)。それでもこれを知っているのは、高校の学校行事で行った広島旅行で、被差別部落を訪問するというコースを選択したからだ。今よりもっともっと世間知らずだった私、「どんな特殊な地域なんだろう?」という好奇心もあって選択したわけだが、行ってみると拍子抜けというか、とても普通だった。ますます、なにがどうしてなぜ差別をされているのかわからなかった。それから大学の研究旅行の中でも、三味線作りの見学に行ったとき、「皮を扱う職業は、アレなんで、デリケートな方もいらっしゃるんで、写真撮影はダメです」とだけ言われて、今思えばそこをアレで済ませて研究旅行としてよいのか疑問、という感じで帰って来た。結局なんなん?という気持ちがずっとある。

で、こういう本を読んでみて、全てが氷解!というわけではもちろんないのですが、「で、フラットに、当事者の人はいまどんなふうに過ごしているの?」という疑問に答えてくれる良書でした。全国の被差別部落(著者はそれを路地と呼んでいますが)を取材して歩く著者の原動力が、(どちらかに偏らざるを得ない)熱い正義感、とかではなく、ご自分のルーツ探しのようなところがあって、それゆえの謙虚さというか、時には立ち入り過ぎたことは聞けず収穫少なく帰ってくることもある、まんじり、みたいな余韻も、誠実でいいなあと思いました。ルポルタージュというものをそうそう読みつけていないので、取材する者の腕としての良し悪しはわかりませんが、自分は別次元の人間だーみたいに勘違いしてガツガツえぐり取っていくような悪いイメージが、ルポライターってあったので(ごめんなさい)、知りたいことは知れたけど自分も悪いことをしたような不快感ばかりが残るようだったらどうしよう、という不安は、杞憂に終わりました。
最近、美味しいなあと思っているかすうどんが、著者によると屠殺を生業にしていた路地の料理だそうで、びっくりした。屠殺、三味線作り、芸人さん、出産の時に出る胎盤の処理、、、などなどの職業が路地とは関わりが深いようだが、どれもこれも自分だってお世話になっている大事な仕事だというのに、なぜ人は差別するのでしょうね。かすうどんは美味しいし。やっぱり理解できないなー、そう思う反面、自分はそういう謎の差別をしていない/しないと言い切れるのか?胸に手を当てて考えてみる。そういう時間をくれる本でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: なるほど系
感想投稿日 : 2013年6月13日
読了日 : 2013年5月9日
本棚登録日 : 2013年4月28日

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コメント 2件

chapopoさんのコメント
2013/07/13

私も部落問題は中学か高校の時からずっと気になっていて、何故そのような差別が発生したのか、その人たちが差別されるに至った理由が何かあるのかお知りたかった。
お父さんが若い頃仕事で被差別の人たちと交流があったと聞いていたので、質問したことがある。
大した理由なんて無いだろう、というような趣旨の返事だった。
結局謎は謎のまま。
『狭山裁判』っていう本が私の本棚にあるが、あれも部落問題が根底に有るのよね。
ユダヤ教にしてもそうだけど、私は根っこの部分が知りたくて、いろいろ読んだけど、はっきり分からない。
多分、きっと、大した理由なんて無い、のだろうと、最近は思っている。人間は弱い生き物だから、自分より弱い対象が欲しかっただけなのかも知れない。だからそれは誰でもよくて、たまたま、その時隣に居た人、くらいの理由かもしれない。その本読んでみようっと。

akikobbさんのコメント
2013/07/15

そうねえ、なるほど!というような理由なんてないんだろうねえ。
覚えてたら本持ってく。

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