理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ

著者 :
  • 朝日出版社 (2014年10月25日発売)
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本棚登録 : 731
感想 : 73
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まず、「理不尽な進化」というタイトルから、なんとなくグールドのエッセイのような「末端肥大的な部位の発達とかが極端になって生きづらくなり、生物として行き止まりになってしまって絶滅せざるを得なかった進化」的な各論が載っている本かなあと思って読み始めたら全然違ったので、なんでかそう思い込んでいた自分に驚いた。
ざっくり分けると、前半は日常に溢れる誤った「進化」的言説の使われ方にまつわる話、後半はグールドが自爆テロ的論争に突入した話であった。
個人的には前半の方が面白かった。「進化」って紛らわしい言葉で誤解を招きやすいと常々感じていたので、その根っこがスペンサーとラマルクにあることが確認できたのが大変納得。特にスペンサーについてはあまりよく知らなかったので、また関連書を読んでみたい。この本はどのトピックについても参考書がどっさりと紹介されているので、こうやって興味を持った点について辿りやすい点が良い。
後半部分については、私自身がグールドの書く文章が大好きであるせいで、なかなかつらかった。原典で理解可能ならグールドとドーキンスを直に読むのが良いと思う。
「理不尽」という言葉はマイナスのイメージが大きく(もちろんそれを意図してのタイトルだとは思うが)、「進化」と同じく、誤って定向的なイメージに導く恐れがあるとも思った。本来「進化」はプラスでもマイナスでもないはずだ(というのはこの本でも繰り返し語られる)。人間の限られた認知力では生のみが意味を持ち絶滅=死はなんの意味もないように思えるが、もしかしたら絶滅した種は涅槃で階梯を昇っているのかもしれず、生き残るのがプラスとも限らないではないか? まあこれは屁理屈ではあるが、生き死にをそのままプラスとマイナスと考えることそのものが科学的な態度ではないように思う。科学はその部分でさえニュートラルなものではないだろうか。これまで存在した種の99.9パーセントは「理不尽に」絶滅したのではなく「単に」絶滅したのであり、他も「単に」生き残ったのであって、意味などないのだ。
余談だが、受験に出そうな文章だなあと思った。特に、鶴見俊輔を引っ張り出して「お守りとしての進化論」を述べる下り。本当に出てたりして。
余談その2。造本がとても良い。ハードカバーでないだけでなく、白を基本にした表紙に白亜紀の哺乳類エオマイアのイラスト1点のみをあしらったシンプルな装丁。ちょっと手垢がつくのが心配なところだけが難点だけど、図書館で借りたのでフィルムが貼ってあって安心でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年10月11日
読了日 : 2021年10月11日
本棚登録日 : 2021年10月11日

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