日米開戦の正体――なぜ真珠湾攻撃という道を歩んだのか

著者 :
  • 祥伝社 (2015年5月12日発売)
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本棚登録 : 208
感想 : 21
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以前、著者である孫崎氏の「戦後史の正体」を、日本近現代史の新たな視点で興味深く読んだことから、戦後70年という節目に、2015年の夏休み図書として購入。
まとまった読書時間がなかなか取れず、かつ500ページ以上の分量だったため、読了したのが翌年の初夏になってしまった。

孫崎氏は本書のまえがきにて、現代の安倍政権とジャーナリズムのあり方が、先の太平洋戦争開戦時の状況と酷似しているとし、元外務官僚だった立場で現代社会に警鐘を鳴らすことから論考が展開される。

日米開戦への道のりと開戦に至った原因を著者なりの視点でまとめ、それを読者に対して問題提起する論調はいつものスタイルともいえるが、本書の特徴は、著者の論点や考えのみが述べられているのではなく、当時を生きた多くの関係者の著書や手記等のを可能な限り引用し、歴史の解釈や当時の状況の描写に関しての客観性を試みている点であるといえる。
関係者においても、軍人や政治家・官僚だけでなく、ジャーナリズムや文学界からも引用されていることが、客観性をより高めていると感じる。

また、著者自身は歴史家という立場ではないからか、歴史を論ずる際のタブーとされる"IF"をあえて用いているが、これは著者自身の考えや歴史的解釈を強調したいからなのであろう。自分としても違和感なく著者の想いを理解しながら読み進めることができたので、このようなアプローチも悪くはないと感じた。

本書では太平洋戦争(特に開戦の端緒となった真珠湾攻撃)の遠因は日露戦争の勝利にあるとして、そこまで遡って述べられているが、ひとつの事象を長期的視点に立ち、かつ複眼的(国内-海外、戦争賛成派-反対派、国家-民衆 等)に分析し論説されている点は評価したい。

戦争は戦略・戦術のみならず、政治・経済・外交に加え、時には宗教や思想、国家レベルの謀略等も絡み、限られた紙面の書籍にて多面的に論説するのは極めて難しい分野であるといえるが、孫崎氏のように(反論や批判があると分かったうえで)独自の視点やアプローチによって、現代社会と対比しながら切り込んでいくスタイルは、読者にも多面的に考えさせるという点でも貴重なのではないだろうか。

孫崎氏の歴史観は賛否あるものの、その時代を生きた人物の生の声を拾い上げていくアプローチは、日々に忙殺されて関連した時代の本を読む時間が取れない身としては有り難いと感じた。
引用を多用することでオリジナリティに欠けるという批評もあるとは思うが、こうしたアプローチはインターネット分野では一般的になった"キュレーション的手法"ということができ、情報が氾濫する現代社会では歴史分野においても有用であるといえる。

「戦後史の正体」と同様、著者独自の視点とアプローチで興味深く読み進められたが、分量が多いからか、論調が全体的に散文的で、かつあとがきに「最終章を書いていながら、まだ筆を置けません。」と述べてあるように、著者自身も不完全燃焼で締められていることから、今後への期待を込めて評価は4とした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2020年1月29日
読了日 : -
本棚登録日 : 2020年1月29日

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