2020年の夏休み図書として購入。
2017年から社会人として博士後期課程に進学したことがきっかけで哲学的思考に興味を持ち始め、自身の研究を進める傍ら様々な西洋哲学の入門書も読み進んでいくなかで偶然本書を知ることとなった。
著者は国内におけるゲームAI開発者の第一人者ともいえる三宅陽一郎氏であるが、本書は三宅氏が「人工知能のための哲学塾」というイベントを5回に渡って開催した際の、いわば講義録的な内容となっている。
人工知能関連の書籍はサイエンスやエンジニアリングに偏った内容が多い中で、本書は人工知能に関する専門的な内容は最小限に留めつつ、人工知能開発における哲学的思考の必要性について、終始一貫して取っ付きやすい話し言葉と図解で綴られている。
そのため、"人工知能と哲学"という一見難解かつそれぞれの関連がなさそうなテーマにも関わらず、専門家でなくても読み進めることのできる構成となっている点が、本書の最大の特徴であるといえる。
個人的に興味はあるものの、何から手を付ければ良いのか分からなかった「現象学」について、人工知能という切り口でデカルトとフッサールの哲学を対比させながら冒頭で解説し、最終章でメルロ=ポンティの知覚論に繋げる展開は、非常に理解の助けとなった。
また、本書は現象学アプローチだけでなく、ユクスキュル、ギブソン、ベルンシュタインなどによる生物学的アプローチや、デカルト、ライプニッツ、ラッセルなどによる数学・記号学的アプローチ、そしてジャック・ラカン、ジャック・デリダなどによる構造主義的アプローチに関しても解説され、人工知能開発を下支えするための多角的・多面的なアプローチの必要性を説いている。
「ゲームキャラクターにAIを実装する」と聞くと軽い響きに感じるが、これは「コンピュータに知能を持たせる」ことと同義である。さらに言い換えると、文字通り"人工的に知能を創り出す"ことに他ならない。
そのためにはまず、プログラミングや開発以前に「知能とは何か?」という疑問が出発点となり、その解を足がかりとして構築していかなくてはならず、途方もない地平が広がっていることに気付く。
そしてその解を導出するために、哲学的アプローチが必要であると著者の三宅氏は主張する。
5回のテーマそれぞれが異なる学説やアプローチで展開され、時には哲学から離れる部分もあるが、図表がふんだんに使われ首尾一貫した構成であるため、困惑することなく読み進められた。
また本書を通じて、人工知能開発に対する現在の課題および将来の可能性だけでなく、新たに学んでみたい哲学者について知ることもできた。
最後に、本書を読み終わった時の率直な感想は、
『人間は、根源的に時間的・空間的存在である。』
- 感想投稿日 : 2020年8月23日
- 読了日 : 2020年8月19日
- 本棚登録日 : 2020年8月19日
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