その名を暴け: #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い

  • 新潮社 (2020年7月30日発売)
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#MeToo 運動を爆発的なものとしたニューヨーク・タイムズのハーヴェイ・ワインスタインに関する報道の全容を明かしたノンフィクション。この報道は2018年のピュリッツァー賞を受賞した。さらに後半(第8章以降)には、連邦最高裁判事ブレット・カバノーを告発したクリスティーン・ブラゼイ・フォードとその弁護団の闘いが書かれる。
はじめに、私は調査報道を舐めていた。こんなにも過酷でかつ繊細だとは想像もしなかった。しかし、もし誤った報道をしてしまえば、その報道で誰かの人生が破滅するのだ。報道は対象の人生を揺るがす。
ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイー、ふたりの記者は、まず証言者を探し、その証言の裏を取る。地道であり、果てしない作業だ。
ハーヴェイ・ワインスタインは「神」である。ミラマックスとワインスタイン・カンパニーが手掛けた作品は映画好きなら皆知っている。アカデミー賞の為のキャンペーンに莫大な金をかけたり、買い付けた作品を散々再編集させたりという(性犯罪以外の)悪評もあったけれど、やはり彼は凄腕プロデューサーであり「神」であり、そして経営者である。
声を上げられない女性の葛藤は非常に生々しい。そして彼女たちは秘密保持条項を含む示談に縛られている。「女性の味方」を標榜する女性弁護士がこの示談に関与しているくだりは、正直なところぞっとする。
縛られる女性たち。探偵やイスラエルの諜報会社まで使って報道を阻止せんとするワインスタイン側。告発者を守りながらオンレコで語ってもらうには。
調査報道の困難さが実感できる。2名の記者の粘り強さと礼儀正しさ。彼女たちを支え、助言するタイムズのメンバー。
タイムズ側に対するワインスタイン側の対応は、贔屓目に見ても妥当に見えない。本当に地道な調査の積み重ねと、記者たちの真摯な姿勢が、理不尽な社会を斬った。
...だが、斬っても、社会の根本が変わっていないと思わされるのが第8章以降である。
日本でもそうだが、世の中の一部は女性の感情を本当に見ていないと感じることがある。自分勝手な欲望を相手に与えてもそれを罪と思わない。いや、たとえ思ったとしてもそれを重大なこととは思わない。女性が長い間、その傷を抱えてついに告発しても「なぜその時言わなかったのか」と言う。立場の高い者は「女性が誘惑してきた」とも言う。恐ろしい程重い蓋だ。
重い蓋を課せられながら、公聴会で告発したクリスティーン・ブラゼイ・フォード。結局、結果は変えられなかったが、この頑迷な世界に楔を打ち込むことはできたのだろうか?できたと信じたい。
終章で、この本に登場した告発者の女性たちは集まり、語り合う。語り、先を見る。「語り合うこと」には強烈な意味があると感じた。孤独ではないということ。立場が異なっても闘う土壌は変わらないこと。声を上げ続けることの意味。
最後に。この調査報道で様々なことが浮き彫りになったが、やはり女性を口止めする手段としての「示談」は卑劣だと感じてしまう。そしてそれがまかり通っていること。本当はそんなことが起こらない社会が最良なのだが、私たちは問題に直面したとき、誰を信じれば良いのか...。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年9月1日
読了日 : 2020年9月1日
本棚登録日 : 2020年9月1日

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