第二次世界大戦中のヨーロッパ、合衆国陸軍の特技兵(コック)のティモシー(ティム)は、ノルマンディー降下作戦で初陣を果たし、戦闘と炊事をこなしながら、仲間とともに戦地でのささやかな謎を解き明かし、心の慰めとする……。
ストーリー紹介だけ見ると、様々なミステリ賞にランクインしていたこともあり、戦地という非日常の中での日常の謎を描くミステリなのかと感じますが、実際読み始めてみると戦争小説の側面が非常に強いです。
序盤は戦況や物資などにもまだ余裕がありますが、章が進むごとに戦況は悪化し、さっきまで共に軽口をたたきあい、共に戦っていた仲間がどんどんと怪我を負い、心を病み、あるいは戦死して失われていく。
主要人物たちはフィクションなのですが、参考文献の多さからも分かる通り、しっかりとした下調べに裏打ちされたディティールの細かさは、まるで実際に戦場に出ていた方から話を聞いているようなリアリティがあり、とにかく情緒をぐちゃぐちゃにされます。物語に感情移入してしまう方なので、胸が潰されそうに辛かった。
けれど、昨今のこの情勢だからこそ、読んでよかったとも思えます。
人は忘れてしまう生き物ですが、二度とこの惨劇を繰り返さないように。
登場人物も多いですがそれぞれ個性があるので、混乱などは少なかったように思います。また、日本の小説ですが言葉選びなどには翻訳小説のような趣があり、比較的厚めの本にも関わらずぐいぐい読ませてしまう筆力にも感嘆です。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
ミステリ
- 感想投稿日 : 2022年7月13日
- 読了日 : 2022年7月13日
- 本棚登録日 : 2022年7月13日
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