アイスランド、アイルランド、ギリシャ、ドイツ、そして日本。筆者がこれらの国々を回って目にしたものは―。巨額のマネーをめぐる人間の『悲喜こもごも』はやはり自分にとっての大事なテーマだと思いました。
この本は自身が金融業界出身の筆者が書いた世界経済に関するノンフィクションです。やはり筆者の真骨頂はこういう話に尽きると思います。ここでは筆者自身がアイスランド、アイルランド、ギリシャ、ドイツ、そして日本を自らの足で回り、現地の人に話を聞き、そして考察を重ねるもので、『見たこともない巨額の金が押し寄せたとき、そしてその金が引き潮のように消えてしまったとき、人間はどう狂うのか、国はどう変わるのか』主にヨーロッパの金融危機とその後の人々が描かれておりますが、やはりカネにまつわる悲喜こもごも』はわれわれの身近なことになっており、遠いところで起こっていることが瞬く間に全世界を駆け巡っていくということはもはやいうまででもないことでしょう。
アイスランドでは今まで魚を捕っていた漁師達が金融業に転職し、あたかも国中をあげてひとつの『ヘッジファンド』の様相を呈し、潮が引くようにマネーが去っていくとそこにはペンペン草も生えず、ただただ巨額に膨れ上がったデリバティブの損失を目の当たりにするしかない様子や、目の前に展開される修羅場にひたすら耐え続けるアイルランドの人々。ギリシャでは公務員の給料が民間の三倍であることを皮切りに、数々の手厚い保護を受け、さらには国全体が抱える借金を正確に把握できない状態にしてユーロ経済に参加し、あとからあとから出てくる国の負債に心身をすり減らす人々。
ドイツ。僕はこれが一番印象に残っているのですが、ドイツ人の国民性で(あくまでここに書いてあることです)「糞と泥と肥やしとケツ」に関することがやたらと多いことから始まって、自国では国民に投機的な経済をさせない一方で、他国にはどう考えても焦げ付着そうな話に平気で金を貸す。その論理は表向きには『潔癖と秩序に取り憑かれながら、汚物と混沌を愛でる人間が、面倒なことに巻き込まれないはずがない』という言葉に集約されていて、ここは何度も爆笑しながら読みました。
終盤のアーノルド・シュワルツネッガーと筆者の『朝の自転車』の場面は彼のパーソナリティーが透けて見えるところもあって面白かったです。最後に自分たちの中にも『ギリシャ』が存在しているのではないかと思いつつ。筆者の言うように恐慌がブーメランのように帰ってこないことを祈りつつ、こで筆をおこうかと思います。
- 感想投稿日 : 2012年7月15日
- 読了日 : 2012年7月15日
- 本棚登録日 : 2012年7月15日
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