時代物の形を借りながら、現代人的な心理や会話の描写に身がつまされる感じで楽しめた。藤沢周平で江戸の女性の不自由な暮らしぶりを見慣れて免疫ができたからか、本作の女性たちは辛い境遇でも概ねもっと救いや主体性が確保されている。あるいは舞台を江戸時代にしてもやはり書かれた時代の影響が大きく、20世紀と21世紀の違いが見える気がする(作家にもよるとは思うけど)。一作目と五作目は急な展開の部分で(僭越ながら)もしかして書くの下手?と思えるほど整理できてない感じがしたが、総じて前向きで、ハッピーエンドでなくても読後感の良い作品が多い。
後瀬の花
いきなり奇抜な話。「地図を読めない女と話を聞かない男」を時代物にして突然死後の世界?喧嘩の口論が多いが、そこがなかなかいいことを書いているというか勉強になる。一方的に攻められた女の子の反撃がいちいち図星で妙に冷静かつ天真爛漫なところが面白かった。
行き道
同じ中年女性の分岐点を描いて次作では思い切りがうまくいき本作は踏み留まる、二人の境遇や性格の違いからそれぞれそのほうがよかったと思える、常識的で安心して読める感が良かった。自分が病気をしたときの相手の態度に対し「目には目を」的なことを繰り返し描いているので子供っぽく且つ執念深い主人公に見えるが、実際にはそこに至るまで積年のものがあっただろう。
小田原鰹
一組の夫婦を起点に上下三世代を自在に行き交いバラバラな家族とそれぞれの孤独を点描しながら少し長めの短編でまとめる、という離れ業的な作品と言えるかもしれない。出奔するおつねさんは応援したくなるような元気をくれる人物像。鹿蔵の、今でいう中高年の引きこもり的な状態からの再生は悲惨ながらも、彼女が贈り続けた鰹が世間との関わりに大きな一助となり、彼も最期結局よかったと思えたのでは。
蟹
漫画っぽいけど一番好きかも。複雑で微妙な境遇のヒロインが斬新。卑劣な男たちは時代物にはうんざりするほど出てきて、成敗されてもなんかすっきりしないことが多いけれど、現実には絶対いなさそうな岡本岡太が清々しく、彼の活躍がはっきり描かれていないところが逆にこの作品の魅力になっている気がする。
五年の梅
周りから豪胆と評されるような人の内面が、わりと単純で素直に描写されて、実際そういうものかもしれない、と思った。
- 感想投稿日 : 2022年5月15日
- 読了日 : 2022年5月14日
- 本棚登録日 : 2022年5月14日
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