文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1998年9月14日発売)
3.86
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本棚登録 : 16588
感想 : 1769
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【ミステリーレビュー400冊目】この世に不思議なことなど何もない… でも不思議な物語 #姑獲鳥の夏

■はじめに
新本格以降の国内ミステリー作家は一通りかじってきたのですが、ずっと読まずに温めていた京極先生。なので実は本作も初読みなんですよね。最新作『鵼の碑』も発売されたことですし、よいきっかけなので手に取ってみました。

まぁ読まずとも名作というのは知っていたんですが、実際に読んでみたら目ん玉が飛び出ました。いままで世界観がスゴイ作品ですね~と気軽に言ってましたが、本書こそ、その形容がふさわしい。とんでもない読書体験がそこにありました。

■きっと読みたくなるレビュー
京極堂と関口、二人の語らいシーンが、もうたまらんす…
小説で重要とされる序盤シーンで、ただただ二人がしゃべってるだけなんですよ。なのに、京極堂の含蓄ありまくり名台詞の数々で、あっという間に物語の虜です。

京極堂から放たれるウンチクは、妖怪奇譚や民俗学などの厚みのある知識にも圧倒されますが、さらに量子力学や仮想現実など、現代テクノロジーとの関係性や考察も含めて語られていく。しかも理解がしやすいのがスゴくて、途中よくわからなくなっても、結局最後にはそれなりに腹に落ちるんですよね。
特に、何のために生きているのか、心と脳と意識の違いなどは、ミステリーというより完全に哲学の世界。もうこれ大学の講義ですよね。

徐々に物語の深みに入ってくると、一気に怪奇的で夢うつつな世界に包まれてしまう。映画のように、ぱっとシーンが切り替わって映像が目に浮かぶんですよ。もちろん文章を読んでいるだけなんですけど。
そしてある場面で死の描写がされるのですが、これがリアルで怖かった… 死ぬ瞬間って、こんな感じなんでしょうね。

本作にはいくつか大きな謎がありますが、その中でも私が一番シビレタのは藤野牧朗の行動原理。後半、周囲の衝撃的な事実と、彼の行動原理になったきっかけが明かされていくのですが、これが深すぎるんです。
手塚治虫の火の鳥を読んだ時以来のインパクト。そして、確かに彼の取った行動は正解かもと思ってしまう。こんなカタルシスに浸ったのは久しぶりです。

もちろん他の謎解きも切れ味が鋭いし、意外性も満点だし、納得感も高いし、しっかりミステリーです。伏線なんて、超エグイですよ。すとっーん!と、映像で脳に入ってくるんですよね。めいっぱい楽しませていただきました。

文学性も高く、人生勉強にもなり、エンタメとしてもミステリーとしても高品質。死ぬまでには、シリーズ全部読み切りたいです!

■さいごに
京極堂と関口、冒頭の会話。京極堂は世の中に面白くない本などは存在しないと語る。関口はその考えに納得がいかない。しかし事件が終わった終盤では、関口は漬物や新興宗教の経典など、興味もなかった本を読んで楽しさを知るんです。

何でもない場面のように見えますが、この事件を体験した関口の成長を示唆していると感じました。現実に向き合い、そして我々人間の永遠のテーマともいえる「生きる」ということに対して、前向きに歩き始めている。

何度も何度も、繰り返して読みたくなるような、生命力あふれる作品でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー
感想投稿日 : 2023年10月25日
読了日 : 2023年10月24日
本棚登録日 : 2023年10月24日

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コメント 4件

fukayanegiさんのコメント
2023/10/25

autumn522akiさん

こんばんは。
ミステリーレビュー400冊、おめでとうございます!!

自分、akiさんの『十角館の殺人』のレビューでの「ミステリーは、本作以前、以降として分類される」という名言に痺れ、あの本を手に取りました。
結果、ストーリーを忘れがちな自分にとってもあの衝撃は今でも記憶に残っています。

『姑獲鳥の夏』は読んだ記憶こそあれど、厚み以外全く記憶に残っていないのですが、このタイミングでこのレビューを読み、改めて読まずにはいられない!と思いました。

500冊目には何が来るか楽しみにしています。

土瓶さんのコメント
2023/10/25

autumn522akiさん、こんばんは~^^

初京極夏彦ですか。
おめでとうございます。
と、同時に羨ましい。
これから右肩上がりにおもしろくなるこのシリーズを堪能できるなんて。
できることなら記憶をなくして、ってヤツです。
そしておもしろさに比例して本の厚みも増していきますよ~。
手首は鍛えておいてください(笑)

あ、京極夏彦さんはこの百鬼夜行シリーズだけでなく、巷説百物語シリーズや、「嗤う伊右衛門」などの江戸の怪談シリーズも超おもしろいです。
お勧めです。

bmakiさんのコメント
2023/10/25

記念すべき400冊目に京極先生!!
素晴らしい(*^▽^*)

このレビュー、身体中に染み渡りました!

深みにハマってしまいましたね。
もう抜け出せなくなりますよ。

頭の悪い私でも、この物語は再読するほどの面白さ。


私ももう一度京極堂読み直したいです(*^^*)

autumn522akiさんのコメント
2023/10/25

>fukayanegiさん
こんばんはです!お祝いコメント、ありがとうございます^^
あはは、何せ大げさに言うのが得意なもので、でも面白いですよね。

本作はたぶん何度読んでもその都度楽しいし、何歳で読むかによっても受け取るメッセージも変わってくると思います。ということで、fukayaさんも再トライ!

>土瓶さん
こんばんは~、ありがとうございます!
そうなの、初めて読むんです。ま、本棚には積読が何冊もあるんですけどね(汗

正直予想以上でしたね、レビューにも書いたのですが「火の鳥」を初めて読んだ時のような感覚。世界に没頭しちゃうんですよね。人生の教科書のつもりで読んでいこうと思います。

他のシリーズも気になる~情報ありがとうございます^^

>bmakiさん
こんばんわ♪ お祝いありがとうございます~
確かにヤバいですね、これは。沼っちゃうの、超わかります!

他の作品もじっくり楽しみたいと思います。

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