すべてがFになる (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1998年12月11日発売)
3.86
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本棚登録 : 29332
感想 : 3036
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【ミステリーレビュー300冊目】天才たちの密室殺人劇場、伝説シリーズの始まり #すべてがFになる

■『すべてがFになる』を読むにあたって
レビュー300冊目は、みんな大好きS&Mシリーズ。第1回メフィスト賞を受賞、その後同シリーズが計10作品、さらにVシリーズ、四季シリーズと続いていく伝説の一作目です。

理系ミステリィの金字塔と呼ばれ、鬼才天才の真賀田四季をはじめ、犀川創平、西之園萌絵など、愛らしくも聡明で個性あふれるキャラと、人間関係の描写が読み手をひきつけてやまないミステリィシリーズです。

S&M、V、四季シリーズまでは全部読んでいるのですが、今回300冊目ということで『すべてがFになる』を再読しました。

私が国内シリーズものを1つだけ推すのであれば、このS&Mシリーズです。
面白いっつーか、もはや人生のイベントですよ。生まれてはじめて海外旅行に行く、スキューバーダイビングを体験する、宝塚を観劇する。みたいなもんです。まさかまだ読んでない人は「生まれて初めてS&Mシリーズを体験する」チャンスです。死ぬまでに絶対読みましょう。

■あらすじ
過去の犯罪歴から、孤島に隔離されて研究を続けている天才博士、真賀田四季。大学の助教授である創平と学生の萌絵は、その孤島へキャンプ合宿に出かけることになった。
二人は特別に研究所内を見学させてもらえることになり、四季博士に会うため部屋の前で待っていた。そこで突然へやの扉が開くと、現れたのはウェディングドレスを着た死体だった…

■きっと読みたくなるレビュー
○キャラクター
なによりスゴイのは真賀田四季。第一章の一節目から、もう天才ぶりがスゴイ。常人にはまったく理解できないけど、会話がめっちゃ面白いし、これからのストーリィに期待が膨らむ。

頭がいい人は、物事の本質をとらえるのに長けているというが、そういうレベルではない。善悪や損得とかいう価値基準の次元の話ではなく、もはや精神とか生き方の世界。凡人から見ると、底知れぬ恐ろしさしか感じない。

並の人間でも何とか理解できるのは創平先生。
とはいえ彼の価値観も的確で鋭く、すでに芸術的でもある。ぼんやり生きている我々に、その考えは本当に正しいですか? と、指摘をしてくれるのです。

本書引用 P367
時計盤には12までの数字が書かれているが、1時間は60分なので60までの数字を書かれてないのは不便である。もしくは1時間を12分と定義すればよい。そうすれば子どもに時計の教育をする必要がない。

そして本作の天使、西之園萌絵ちゃん。
理系ミステリィで凄惨な事件であるため、全編通してどこか冷たく、硬いイメージなんですが、彼女のキャラクターが作品全体を甘くしてくれています。
彼女と創平、四季、世津子とのやり取りを見てると、大学生時代の可愛かったあの子を思い出して、微笑んでしまうんですよね。

○ミステリィ「すべてがFになる」
何度読んでも、この意味が判明する瞬間は寒気が止まらない。
ぞわぞわっ… す、すげぇーーーーー

解けなかったパズルが、一気に解き明かされるこの快感ですよ。この快感のために、今まで生きてきたに違いない(大げさ

○先端科学や技術
本作は1996年の作品、windows95が発売された翌年です。
登場人物たちが作中で使っているのは、VR、音声認識、リモートワークなど、先端技術です。はやっ

仕事を合理的に進めるための新しい働き方を手助けしてくれる、今やどこでも使われています。私の仕事でも毎日のように利用していますが、人との繋がりが希薄になっているのは課題なんですよね。
なーんて、この発想自体も、能力のない凡人の課題感なんでしょう。

■ぜっさん推しポイント
このシリーズを読んでいると、以下の問答を思い出す。

問い:人は何のために生きているか
答え:死ぬまでの暇つぶし

絶望的な回答ながらも、これが真理ではないかと思うことがある。どんなに社会に貢献しても、たくさんの人命を救っても、多くの子孫を残しても、所詮は死ぬまでの暇つぶし。

しかし私は好きなミステリィを読んで、この乱筆なレビューを書き連ねている。誰かの役に立って欲しいと思いながらも、まったく役に立っていないかもしれない。

でも私は自身の信条をもとに、思い切り楽しんで、自信をもって、堂々とレビューを書いていきたいんです。

何故あなたは○○するんですか?
という問いに、本作はヒントをくれるような気がするのです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本格ミステリー
感想投稿日 : 2023年3月31日
読了日 : 2023年3月29日
本棚登録日 : 2023年3月29日

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コメント 5件

aoi-soraさんのコメント
2023/03/31

秋さん、300レビューおめでとうございます!!

私は「まさかまだ読んでない人」の一人です(笑)
そして森博嗣さん未読です
秋さんのレビューから読みたい本が次々に現れて困っていますが、この作品も是非読みたい一冊となりました╰⁠(⁠*⁠´⁠︶⁠`⁠*⁠)⁠╯

これからも熱いレビューを楽しみにしています!

raindropsさんのコメント
2023/03/31

autumn522akiさん、こんにちわ。

私も国内シリーズで推すとしたらS&
Mです。WWシリーズまで続く真賀田四季ワールドの記念すべき最初のシリーズです。
特にこの「すべてがFになる」は、この言葉の意味が分かったときの衝撃が未だに忘れられません。

autumn522akiさんのコメント
2023/03/31

aoi-soraさん、ありがとう~
それは読まなきゃですよ!
森先生の作品は、まさに沼にハマりかねない魅力が満載です。

ぜひぜひ読んでほしいんですが、私生活に支障をきたす危険性があるのでご注意を^^

raindropsさん、こんちわです。
そうそう、S&Mシリーズしか勝たんって感じですよね。

まだ四季シリーズまでしか読めてないので、もっと別シリーズも
読みたいんですけど、時間がとれねぇ&もっとハマりそうで怖い。
そして「すべてがFになる」の真相… ものすごかったですよね…うんうん

コメントありがとうございました^^

バス好きな読書虫さんのコメント
2023/03/31

いつもレビュー楽しく、拝見させていただいております。
初めて、コメントさせていただきますが、記念にこの作品を再読と言う気持ちが痛いほど、分かって…
私も何度読んでも、今作は最高傑作だと思います。
Vまで何度も読み返しましたが、最近は再読をする機会が無くなって来ていたので、久しぶりに読みたくなってしまいました!

autumn522akiさんのコメント
2023/03/31

読書虫さん、こんばんわ!
初コメントありがとうございます。
ねーねー、最高傑作ですよね。

Vシリーズもさらに突飛なキャラクターが大暴れして、
めちゃくちゃ面白いんですよね。そして色んな驚きも満載ですし^^

読みたいけど読み始めたら止まんないんだよなぁ~ 困るー

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