【ミステリーレビュー300冊目】天才たちの密室殺人劇場、伝説シリーズの始まり #すべてがFになる
■『すべてがFになる』を読むにあたって
レビュー300冊目は、みんな大好きS&Mシリーズ。第1回メフィスト賞を受賞、その後同シリーズが計10作品、さらにVシリーズ、四季シリーズと続いていく伝説の一作目です。
理系ミステリィの金字塔と呼ばれ、鬼才天才の真賀田四季をはじめ、犀川創平、西之園萌絵など、愛らしくも聡明で個性あふれるキャラと、人間関係の描写が読み手をひきつけてやまないミステリィシリーズです。
S&M、V、四季シリーズまでは全部読んでいるのですが、今回300冊目ということで『すべてがFになる』を再読しました。
私が国内シリーズものを1つだけ推すのであれば、このS&Mシリーズです。
面白いっつーか、もはや人生のイベントですよ。生まれてはじめて海外旅行に行く、スキューバーダイビングを体験する、宝塚を観劇する。みたいなもんです。まさかまだ読んでない人は「生まれて初めてS&Mシリーズを体験する」チャンスです。死ぬまでに絶対読みましょう。
■あらすじ
過去の犯罪歴から、孤島に隔離されて研究を続けている天才博士、真賀田四季。大学の助教授である創平と学生の萌絵は、その孤島へキャンプ合宿に出かけることになった。
二人は特別に研究所内を見学させてもらえることになり、四季博士に会うため部屋の前で待っていた。そこで突然へやの扉が開くと、現れたのはウェディングドレスを着た死体だった…
■きっと読みたくなるレビュー
○キャラクター
なによりスゴイのは真賀田四季。第一章の一節目から、もう天才ぶりがスゴイ。常人にはまったく理解できないけど、会話がめっちゃ面白いし、これからのストーリィに期待が膨らむ。
頭がいい人は、物事の本質をとらえるのに長けているというが、そういうレベルではない。善悪や損得とかいう価値基準の次元の話ではなく、もはや精神とか生き方の世界。凡人から見ると、底知れぬ恐ろしさしか感じない。
並の人間でも何とか理解できるのは創平先生。
とはいえ彼の価値観も的確で鋭く、すでに芸術的でもある。ぼんやり生きている我々に、その考えは本当に正しいですか? と、指摘をしてくれるのです。
本書引用 P367
時計盤には12までの数字が書かれているが、1時間は60分なので60までの数字を書かれてないのは不便である。もしくは1時間を12分と定義すればよい。そうすれば子どもに時計の教育をする必要がない。
そして本作の天使、西之園萌絵ちゃん。
理系ミステリィで凄惨な事件であるため、全編通してどこか冷たく、硬いイメージなんですが、彼女のキャラクターが作品全体を甘くしてくれています。
彼女と創平、四季、世津子とのやり取りを見てると、大学生時代の可愛かったあの子を思い出して、微笑んでしまうんですよね。
○ミステリィ「すべてがFになる」
何度読んでも、この意味が判明する瞬間は寒気が止まらない。
ぞわぞわっ… す、すげぇーーーーー
解けなかったパズルが、一気に解き明かされるこの快感ですよ。この快感のために、今まで生きてきたに違いない(大げさ
○先端科学や技術
本作は1996年の作品、windows95が発売された翌年です。
登場人物たちが作中で使っているのは、VR、音声認識、リモートワークなど、先端技術です。はやっ
仕事を合理的に進めるための新しい働き方を手助けしてくれる、今やどこでも使われています。私の仕事でも毎日のように利用していますが、人との繋がりが希薄になっているのは課題なんですよね。
なーんて、この発想自体も、能力のない凡人の課題感なんでしょう。
■ぜっさん推しポイント
このシリーズを読んでいると、以下の問答を思い出す。
問い:人は何のために生きているか
答え:死ぬまでの暇つぶし
絶望的な回答ながらも、これが真理ではないかと思うことがある。どんなに社会に貢献しても、たくさんの人命を救っても、多くの子孫を残しても、所詮は死ぬまでの暇つぶし。
しかし私は好きなミステリィを読んで、この乱筆なレビューを書き連ねている。誰かの役に立って欲しいと思いながらも、まったく役に立っていないかもしれない。
でも私は自身の信条をもとに、思い切り楽しんで、自信をもって、堂々とレビューを書いていきたいんです。
何故あなたは○○するんですか?
という問いに、本作はヒントをくれるような気がするのです。
- 感想投稿日 : 2023年3月31日
- 読了日 : 2023年3月29日
- 本棚登録日 : 2023年3月29日
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