シーシュポスの神話 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1969年7月17日発売)
3.63
  • (111)
  • (89)
  • (226)
  • (14)
  • (8)
本棚登録 : 2088
感想 : 123

[シシュポスはゼウスの秘事をあばいたという、あまり明確ではない理由によって黄泉の国に送られたのであったが、その刑罰は山に大きな岩石を押し上げ、頂上まで届くとその石は転げ落ち、またそれを押し上げなければいけない。永遠にこの無償の努力を繰り返すのが彼の受けた罰であった。
フランスの作家アルベール・カミュは、この逸話をもとにしてて哲学的エッセイ『シシュポスの神話』を書いた。
ーカミュの哲学を簡単に要約するのはむつかしいが、あえてそれをおこなうならば、カミュは従来の神話では無償の労苦と考えられていたシシュポスの行為を肯定的なものとして捉え、「人間のおこないはどれもこれも突きつめて考えればシシュポスの行為同様に無償のものではないか。その無償性に向かって無償と知りつつ努力を続けることが、人間の尊厳さを保つことだ」と解明したわけである。
 平たく言えば、この世界は矛盾だらけに作られている。そうである以上、人間のやることなんか、どれが善でどれが悪かわからない。どの道シシュポスが岩を山へ運ぶのと同様に意味のないことだ。ただ、努力そのものの中に人間の価値がある、と、まぁあ、こう言いきっても当たらずとも遠くはあるまい。]
 

(『ギリシャ神話を知っていますか』阿刀田高 p.108より)

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年9月26日
本棚登録日 : 2023年9月26日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする