暗夜行路 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1990年3月19日発売)
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本棚登録 : 2365
感想 : 167
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自らのための備忘録

まず、新潮文庫で本書を読もうとする読者にお伝えしたいのは、「決して裏表紙の紹介文を読んではならない」ということです。これほどヒドいネタバレは私の知る限りありません。新潮文庫の編集部に抗議したいほどの紹介文です。

いやはや。
志賀直哉という人物をこれまで私はある種の神格化をしていたのだと思い知った作品でした。これが誰かのブログだったら馬鹿らしくて途中で読むのをやめていたに違いないと感じました。文豪志賀直哉の作品だということで最後まで読んだのだけれど、主人公の性格のひどさにはまったく驚いてしまいました。明治という時代ならば、この男の特権階級意識は特別視するほどのこともないのかも知れませんが、まあ関わり合いにはなりたくない男だと思いました。(特権階級というのは、成年男子だということと、小金を持っている階級の出であるということ程度なのですが)

『小僧の神様』や『城の崎にて』は昔おもしろく読んだので、今回、城崎温泉に旅行に行ったので、それではと本書を手に取ったのですが、私にとっては衝撃的なつまらなさでした。いえ、つまらないばかりではなく、腹立たしい小説でした。ぐずぐずと煮え切らず、ろくに仕事もせずに芸者遊びに明け暮れて、癇癪持ちで、妻に手を上げるDV亭主で、節操がなく、何かといえば人のせいににし、まあ簡単に言えば不愉快な男が主人公の小説でした。

愛子さんへの縁談申込みの際の主人公の周囲への逆恨み、長年世話になったお栄さんと関係にも呆れましたが、直子が汽車に駆け乗ろうとした時のエピソードには心の底から怖ろしいと感じました。

最後に追い討ちをかけたのは本人による「あとがき」でした。《主題は女のちょっとしたそういう過失が、——自身もその為苦しむかも知れないが、——それ以上に案外他人をも苦しめる場合があるという事を採りあげて書いた》という一文には唖然とさせられました。

今日なら犯罪被害者と認定されるような女性に対し、「過失によって他者を苦しめる女」と位置付けるなどまったくもって不愉快極まりない小説でした。他責にも程があります。

百年経ってもこの小説を出版し続ける意味がさっぱり理解できませんでした。

敢えて本書の長所をあげれば、明治時代の芸者というのは、今のキャバクラ嬢のような存在だったというのがわかるなど、時代が書き込まれていることでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年7月19日
読了日 : 2023年7月19日
本棚登録日 : 2023年7月5日

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