私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社 (2012年9月14日発売)
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十代の頃、自分は二重人格なのではないかと悩んだことがある。
家族といるときの自分と学校にいる自分があまりにも乖離しているように感じたからだ。
今振り返ると、自分が考えるほど二つの自分は遠くなかったようにも思うが、当時は外の世界に対して自分を偽っている、という罪悪感のようなものをずっと持ち続けていた。

本書では、作家の平野啓一郎さんが私の青春期の悩みを「分人」という理念で説明してくれている。「個人」は分けられないけれど、「分人」は対人関係ごとに構成される。そしてその人の個性は複数の分人の構成比率によって決定される、というのである。

分人は、人と人との反復的な関わりから、だいたい3つのステップによって発生していく、と平野氏はいう。
最初は、よく知らない人と当たり障りのない世間話ができるほどの「社会的な分人」である。そこから、学校や会社、サークルといったより狭いカテゴリーに限定された社会的な分人として、「グループ向けの分人」が形成される。最後に、お互いのことをわかってきた相手に対してより具体化した分人が形成される。

これは、さまざまな人やグループと接する経験を重ねてきた大人ならすんなりと理解できる説明ではないだろうか。そして、まだ対人関係の経験の少ない若者諸君においては、実感できずともこの考え方を頭の隅に置いておいてほしいな、と思う。「偽りの自分」なんかいないし、ある分人では人間関係がうまくいかなくても、別の分人で素敵な人間関係が形成できるかもしれない。

平野氏は、小説の中で分人の概念を反映させてきたそうだ。これまで『ドーン』や『マチネの終わりに』など、平野氏の小説を何冊か読んできたが、分人という概念を意識して読んだことはなかったので、改めて小説を読み直してみたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学・宗教・倫理
感想投稿日 : 2023年2月25日
読了日 : 2022年5月8日
本棚登録日 : 2023年2月25日

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