動物農場〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

  • 早川書房 (2017年1月7日発売)
4.11
  • (234)
  • (271)
  • (119)
  • (10)
  • (8)
本棚登録 : 3488
感想 : 258

ロシア革命後のスターリン体制をモデルに、寓話形式で権力構造を痛烈に批判した小説。

物語の舞台はとある農場。農場主ジョーンズの横暴な仕打ちに耐えかねて彼を追い出した動物たちは、平等な社会を目指し「動物農場」を設立する。しかし中心となった豚のナポレオン、スクウィーラーたちは次々と特権を手にするようになり、次第に当初の理想からかけ離れた社会となっていく…。

子どもたちに読み聞かせるような、やさしい言葉遣いで書かれているだけに、動物農場が徐々に変貌していく様子がより恐ろしく感じる。
特に、平等な社会を目指して最初に取り決めた「七戒」が、知らない間に豚たちの都合の良いように追記修正され、皆が気付いた時には元の文や理念が跡形もなくなっているくだりは、憲法の解釈論議や検察庁法改正問題にもつながるようで、背筋が凍った。

読み終えてから、動物たちはいったいどこで間違ってしまったのだろう、と振り返ったのだが、結局、中心となる3匹の豚たちが反逆のため夜な夜な秘密会議を開く最初まで戻ってしまう。少数の人間(動物)に権力が集中する構造、自分たちはわからないから、とすべてを任せてしてしまう体質などが、恐ろしい結果を招くことになったといえる。

これは、社会主義だけの問題ではない。現代の日本社会だって、暴君ナポレオンや、自分たちの都合のいいように話を作りかえるスクウィーラー、大きな声で皆の頭に浮かんだ疑問をかき消してしまう羊たちのような存在はたくさんいる。動物農場の行く末を繰り返さないために、我々は知らなければいけないし、わからないからと誰かに丸投げしてはいけない。

けれど、そもそも「誰もが平等な社会」とは何なのだろう。
個人の知力、体力は違うし、得意分野も異なる。そんなばらばらな者たちが集まり、皆が納得して幸せに暮らしていける社会とはどのような社会なのか。
自分では考えつかない難しいことを次々と提案する豚たちの言うことを信じ、豊かな老後生活を夢見ながら文字通り馬車馬のように働いたにもかかわらず、悲惨な最後を遂げた馬のボクサーはどうするべきだったのか。
人間は権力を手にすると自己規制ができなくなってしまうのか。そうすると、どういった社会的規制が必要なのか。
社会の構造について、あまりにも自分が疑問に思っていなかったことに愕然とする。

遠い世界ではなく、我が社会のこととして読むべき物語である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外の小説
感想投稿日 : 2022年11月3日
読了日 : 2022年10月25日
本棚登録日 : 2022年11月3日

みんなの感想をみる

コメント 1件

たなか・まさんのコメント
2022/11/10

大学の英語の授業のテキストだった。大学行かなくなって単位落としたから具体的ストーリーはいまだに分からない。もう一コマの英語はキャサリン・アン・ポーターだった。どちらも、ちゃんと読んでおけば良かったなと今は思います。

ツイートする