村で暮らす狭也は、幼いころから「鬼」に追いかけられる悪夢から逃れられないでいた。
ある日、村の祭りに訪れた楽人を装う一行に、自分の出自が村を統治する「輝の一族」に抵抗し、「土ぐも」と卑しまれる「闇の一族」であることを知らされる。自分の運命を受け入れられず、「輝の一族」の采女として神殿に仕えることを望む狭也。しかし運命は彼女を大きな争いの中に巻き込んでいく。
ファンタジー好きを自認していたが、実は日本のファンタジーを読んだのは大人になってからで、上橋菜穂子さんの『守り人』シリーズは完結してから手に取ったし、小野不由美さんの『十二国記』シリーズも読みだしたのはつい数年前である。
本書の作者である萩原規子さんは、上記の二人と並ぶ代表的な日本ファンタジー作家なのだが、失礼ながら存じ上げず、先日読んだ『この本、面白いよ!』でおすすめされていたので、初めて手に取ったしだいである。
本書は、古代日本神話のイザナキノミコト、イザナミノミコトの話をベースにしている。
「輝の一族」は、イザナキから生まれ出たアマテラスとツクヨミ、スサノオをモデルとした不死の一族で、「闇の一族」は、黄泉の国に行ったイザナミに仕え、地上の八百万の神を奉る有限の命の一族である。「輝の一族」と「闇の一族」の闘いは、大和朝廷とそれに抵抗する蝦夷との闘いにもなぞらえられる。
本書はまた、「闇の一族」の中で「輝の一族」を滅ぼす剣をコントロールすることができる「水の乙女」狭也と、「輝の一族」のはずれ者であり、スサノオをモデルとする稚羽矢の純愛物語でもある。彼女たちの純粋な愛が、国を二分する戦いをどのような方向に導くのかというところが本書の見どころの一つとなっている。
図書館では10代の若者向けに分類されているが、文字は細かくページ数も多い。それでも、続きが気になって一気に読んでしまった。うっすらとだが神話のあらすじを知っていたため、ああ、あのストーリーをベースにしているのだな、と理解しながら読んだが、知らなくても十分楽しめる。
ただ、主人公の狭也のキャラクターがいまいちつかめなかった。気が強いところがあり、物語を積極的に引っ張っていく立場なのかと思いきや、行動は受動的である。また、物語の始めの方はもっと活躍すると思われた月代王も、中盤から影が薄くなっていく。神話の中で月代王のモデルであるツクヨミはそもそもあまり登場しないうえ、「陰」の立場の月代王は、「闇の一族」とやや立ち位置がかぶってしまうのが原因かもしれない。そこは神話をベースにしたことによるストーリー上の弱さが生じている気もするが、ページをめくらせる力は十分にあるし、読んだ後は改めて『古事記』をおさらいしたくなる。
本書は「勾玉三部作」としてシリーズ化されているようなので、次作も読んでみたい。
- 感想投稿日 : 2021年8月5日
- 読了日 : 2021年7月23日
- 本棚登録日 : 2021年8月5日
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