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本書を読むずっと前に既に漫画版を読んでいた。面白かったので話の内容もほとんど覚えていた。『F』のときも漫画版を先に読んでいたが、ネタが割れても面白く感じるなんてこともあるんだなというのが新鮮だった。しかし、さすがに本書の場合、内容的に真相がわかっていてはそれほど楽しめないのではないかと思っていた。杞憂だった。新たな発見や巧妙な記述、漫画版との相違など、むしろ先に漫画版を読んでおいて良かったなと思えるほど楽しかった。とりわけ個性的なキャラクターたちが漫画版のビジュアル・イメージで再現されるのは非常に助かった。漫画版の出来の良さを改めて感じる。この著者は自作のコミカライズにとても恵まれている。
これまでほぼ刊行順に読んできたが(本作以降の作品は未読)、本作は森作品としては至極まっとうで、極めて堅実で、割とオーソドックスな推理小説らしい推理小説だと感じる。魅力態な謎、真相にいたるまでの過程、論理的な推理、といった必須項目に加えて、それらを彩る個性的過ぎるキャラクターたち、言葉の遊び・思考の遊び、などが絶妙なバランスで結びついて森作品らしさを形作っている。(先行短編もあったが)新シリーズの幕開けに相応しい傑作と言える。
作中の“動機論”は興味深い。本作の縦軸の一つとも言えるテーマだが、常日頃ミステリ(ィ)について考えていたことを、序盤で紅子がほぼ代弁してくれた。素敵だ。
明かされない謎や、投げっぱなしのエピソードもあるが、それもまた良し。今後のネタ振りかもしれないし、何もないのかもしれない。しかしだ。この作品(シリーズ?)に登場するほにゃららは、ふにゃららなのではないか、と思われる描写があるのだがどうだろう。時代背景も微妙にあれだし。今後明かされる? 思い過ごし? 気になって仕方がない。
- 感想投稿日 : 2013年7月9日
- 読了日 : 2013年7月7日
- 本棚登録日 : 2013年7月5日
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